在海飄移
「でしょうね」
龍玉と虎碧の緊張感は高まる。未来から、九百年後から来たなど、常人の言葉ではない。しかし向こうも戸惑っている。人間臭いところを見せる。それが不思議で、ほんとうに同じ人間かもしれないとは思うものの。
虎碧は問う。
「とりあえずお聞きしますけれど、あなた方の世界ではどなたの治世ですか?」
「僕らの世界では、大陸部は辰の康宗、半島は暁星の雄王の治世です」
貴志は答えて。龍玉と虎碧は、無論知らないと首を横に振る。
「天頭山の噴火は、僕らにとって一千年前のことなんです」
「一千年!」
龍玉が呆れたように言葉を継ぐ。
「百年前とじゃえらい開きだね。あの大噴火で山の形が変わったっていうけど」
その次に虎碧が問う。
「あの、噴火の前の、半島を収めていた国の名はわかりますか?」
「高蒙です」
「ありゃ、簡単に答えるね」
「まあ、それなりに学んではいますが……」
源龍と羅彩女は話に割り込むに割り込めず、貴志に任せることにして。成り行きを見守っている。香澄と子どもたちも、笑顔を絶やさず成り行きを見守る。
「……じゃあさ、これから何が起こるか、話すこともできる?」
「まあ、できることはできますが」
龍玉と虎碧の目が貴志に向けられる。
(しかし……)
貴志とて戸惑いを禁じ得ない。なぜ時空を超越して昔に飛ばされてしまったのか。しかも物の怪とも遭遇し。世界樹は自分たちになにをさせたいんだろうか?
というか、これは現か、それとも夢か幻か。自分でもわからなくなってきた。
今実際に生きているのに、どこかなにか、流れる夢や幻の中を漂っているような感触も感じていた。
(もう、いっそのこと)
貴志は意を決し、
「巍が白羅に攻め込んできますが、光善女王は天頭山の天湖に入水し、翼虎となって国を救います」
と、光善女王の翼虎伝説の話をした。が、龍玉と虎碧は顔を見合わせて。
「まさか」
予想通りの答えが返ってくる。
「いくらなんでもそりゃ出来すぎな話だ。だいたい巍の軍勢は強いんだよ。昔あった他の国、燭や娯もあっという間に飲まれちゃって、怒涛の勢いで天下を取ったんだよ」
「その後、家臣が反逆して普を興し。巍は滅びます」
「え? 何言ってるの? あんたもよく話を思いつくねえ」
「これは僕の作り話ではなく、歴史です」
「巍が滅ぶなんて、想像もつかないよ」
「最盛期を見れば、そう思うでしょうね」