超越時空
不思議な子どもである、人質にしているというより、実際はされているような感じが強かった。
ともあれ、羅彩女に、今はいつで何の目的で天頭山に来たのかと問われる。
「変なことを言うね。だから、今は、大陸部は巍が治めて、半島は白羅が治めているよ」
「巍は赤鳳五年、壮蒙帝の治世で。白羅は武徳王の治世で、健願元年です」
「……!」
先に龍玉が言い、虎碧が言葉を継いで。貴志は固まった。固まりつつも、どうにか口を動かす。
「白羅の女王は……?」
「光善女王です。私たちは光善女王の捜索をしていました」
「光善女王は尼に?」
「はい、出家された尼寺から失踪され。心を痛められた武徳王は、出自身分を問わず、見つけ出した者には恩賞を与えると流布されて」
「巍から白羅へ旅してたあたしらも、それに乗っかったってわけさ」
「ほ、ほんとうに今は武徳王の治世なんですね。それじゃあ、巍は白羅に攻め込んできているのでは」
「そうだね。よくわかんないけど、巍と白羅はいくさをするみたいだよ。白羅のあちこちじゃ、戦々恐々さ。イキって、やってやるって吠えてる奴もいるけど、どうなることやら」
「うーむ」
「何が、『うーむ』だよ! だいたいなんであんたらそんなことを聞くんだよ」
「僕ら、時空を超越しちゃってるみたいですね」
「時空を超越だって? ますますわけわかんない」
龍玉は虎碧と顔を見合わせて、ため息をついて首を横に振る。自分たちこそ時空を超越して異次元に放り込まれたようだ。
しかし、やっと話ができるようになった。ここまでなんと長かったことか。
伝説では今の段階で交戦していたが、そこは昔の話で誤差もあり。実際にはまだ刃を交えていないと思ってよいか。
「つまりは、あたしらは遠い昔に来ちゃってるってこと?」
「そうです。先日お話しした光善女王の翼虎伝説の時代にいるんです」
「はあー、なんだそりゃ? そんなことができるのかよ!」
源龍も信じられないと慌てるそぶりを見せた。それから、香澄と子どもたちに目をやった。
三人は笑顔を見せる。
「世界樹ってのは、ほんとうに……」
源龍は観念したようにため息をついた。この男にしては珍しい所作である。
それを見て龍玉と虎碧は珍しそうにする。この者たちも物の怪の類かと思っていたが、それが落ち込むようなところを見せるなんてと。
「で、あんたらは?」
「僕らは、そのですね、未来から来まして」
「は、未来?」
「はい、九百年後の未来から」
「それこそわけわかんないよ」
超越時空 終わり