悪夢戦闘
自分は自分の部屋から、なぜか刑天と源龍と一緒に谷底にいる。周囲はごつごつした岩石ばかりで、草一本生えていない不毛の谷底だった。
「僕は李貴志。暁星の者だ」
「道理で、言葉遣いがなんか違うと思ったぜ」
暁星には暁星の言葉があり、辰の華言葉とは違うが。勉学に励んだ貴志は華言葉も心得ていたから、会話には不自由しなかった。が、発音のしかたなどは、やはり本来の発音とは違うのはやむを得ない。
「なんだってこんなことに。わけがわからないよ」
「オレもそうだ。悔しいが、香澄やあの餓鬼どもにつかまったら、もうどうにもならねえ」
「ぐおおあああーーー!!」
刑天の雄叫びが谷底に轟く。それは肝を締め付けるような不快なものだった。
「香澄? あの餓鬼ども?」
「お前、何も知らねえのか」
「ああ、わからないよ」
「……そうか。世界樹のお導きで、ここにいるんだってよ」
「世界樹……」
そういえば、寝入った時に見た夢で、あの少女は「ようこそ、世界樹へ」と言った。あの大樹が世界樹というのか。そしてあの少女の名は、香澄というのか。
「刑天を倒せ」
きーん、と耳鳴りがしたかと思えば。そんな言葉も一緒に聞こえたような気がした。源龍も貴志が不思議そうにしているのを察した。
「何か聞こえたか?」
「……刑天を倒せって」
「じゃあそうするか」
「うごあああーーー!」
刑天は大斧を振りかぶってこちらに向かい地を蹴り駆けだした。
「余計なことを考えるな、今は刑天を倒すことだけを考えろ!」
源龍は迫る刑天と対峙し、得物の硬鞭、打龍鞭を構える。
貴志は源龍から離れて、後ろに下がった。
刑天は源龍の目前まで迫り、大斧が脳天めがけて振り下ろされる。が、打龍鞭を繰り出して、受け止める。
その力は半端なく、源龍の膝がやや曲がった。が、打龍鞭が業物なおかげで、どうにか踏ん張れた。
貴志は駆け、咄嗟に崖を駆け上がった。手にはいつの間に拾ったのか、拳大の石。崖を駆け上り、刑天を見下ろせる高さまで来ると跳躍しざまに、思いっきり石を投げつけた。
「!!」
刑天は石に気付いたが、源龍と押し合っての競り合いをやめず。石が肩に当たるに任せた。
石は無情にも跳ね返されて、乾いた音を立てて落ちるのみ。同時に貴志も着地した。
「くそ、石ころ程度じゃびくともしないか!」
源龍と刑天は睨み合って互いに力を競り合わせている。しかも貴志を無視している。武器を持たぬ丸腰なため、なめてかかっているのだろうか。
「ん?」
ふと、気になることが閃いた。