超越時空
「光善女王を探してるって、どういうことなんだ!?」
朝星半島の言葉でふたりに問う。
「貴志、今はそれどころじゃないわ」
「え、いつの間に」
貴志のそばには香澄が駆け寄り、危機に備えよと諫めにかかる。
源龍と羅彩女も背中を合わせ、緊張の中危機に備え身構える。羅彩女は猫の鬼を出し、そばにひかえさせる。猫は夜目が利く、この猫の鬼に真っ暗な中、目の代わりになってもらおうという腹積もりだ。
「ふぅー!」
猫は威嚇の声をあげ、その方向に向けて源龍は素早く打龍鞭を突き出した。
鞭の先に何か触れた感触がした。闇に紛れて張が突っ込んできたようだが、突き出された打龍鞭の先を掌で受けて、そのまま後ろに下がったようだ。
「お前、やっぱり人間じゃねえな」
力を込めた突きだった。これが常人だったら手の骨が砕けていたところだが……。張は平気そうに、
「ふふふ。よくぞ気が付いたな」
などと余裕綽々で言う。
「月出すよ!」
世界樹の子どもが言うや、闇の中に明かりが差した。見れば月が頭上に上がり、自分たちを月光で照らし出していた。
「そんなことができるんなら、もっと早くしろよ」
「ごめんごめん。ちょっと慌てちゃってさ」
慌てていたと思えぬ落ち着いた声で世界樹の子どもは返し。
龍玉と虎碧は張の姿を見て、あんぐりと口を開けて固まる。
「ふふふ。怖いかね?」
不敵にして不気味な笑みを浮かべる張の姿は、筋骨隆々とした体格に変わったうえに、なんと頭は狼に、しかもその狼の顔は三つ。
「三つ首の人狼!?」
貴志はありえないと首を横に振るが、確かに目の前には変わり果てた張の姿、三つ首の人狼の姿があった!
三つ首のひとつが虎碧に鋭い視線を向ける。
「お前、碧い目をしているな。それだけじゃない。お前にも感じるぞ、人にあらざる者の臭いが」
「やめて!」
普段冷静に振る舞う虎碧が、取り乱したように首を横に振り。龍玉は珍しく取り乱すのを落ち着けようと、軽く抱擁する。
羅彩女はすぐに猫の鬼を引っ込めて、代わって狼の鬼を出した。
「御託はいい! 結局やるかやられるかだろうが!」
この時、息が合って龍玉と虎碧と子どもたちを除く皆で人狼と化した張を取り囲んだ。
狼の鬼が唸る。
世界樹の子どもとリオンは龍玉と虎碧のそばに駆け寄り。
「僕らを守って」
などと、ちゃっかり懇願する。
人狼は取り囲まれても動じない。平然と不敵な笑みを浮かべている。三つの首で。
「こいつはオレがやる、手を出すな!」
源龍が一歩前に進む。