超越時空
男は鼻をすんすん言わせる。
「一度死んで蘇り、大きな、不思議な力に導かれて、時空を超えた旅を宿命づけられたという、臭いが」
子どもたちは苦笑し合う。
「やー、これはこれは」
「僕たちのことがわかるんですねえ」
「そんな人、人なのかな? ともかく、そんなのがいるから気を付けなさいね、って世界樹に教えてもらったかなあ」
「なんだそりゃ」
子どもたちの話に源龍はすかさず突っ込む。龍玉と虎碧は双方に対して身構えっぱなしだ。
「見えるぞ。お前たちがいかに死んで、蘇らされたのか」
「なに?」
「ふふふ、その黒い鎧の男、お前は浜辺で寝ている間に夢を見、その夢の中でそこな娘にしとめられて、世界樹によって蘇らされたな。その男も!」
張は貴志を指さす。
「お前も、夢の中で、そこな娘に仕留められたな。……その女!」
驚く貴志をよそに、次は羅彩女を指差す。
「お前も夢の中で、そこな娘に仕留められたな。貧民窟で絶望の日々、観念して首をくくり、そのまどろみの中で娘にとどめをさされ」
「何で知ってるの……!」
羅彩女の顔が引きつる。その通りだった。貧民窟で生まれ育ち、泥どころか腐肉すらすするような日々に絶望して首をつって自害したが。命の火が燃え尽きる直前のまどろみの夢の中で、世界樹のもとで、香澄に仕留められた。
「そんなことが」
羅彩女はいかにして転生したのか話さなかったが。なるほどこれは話したくないだろうと、源龍と貴志は合点がいった。が、まさかあらぬことで知ることになるとは。
「知っているのではない。見えるのだ」
張は自慢げに言う。
龍玉と虎碧はただただ唖然とするばかり。聞こえてくる話はあまりにも突拍子もないものだった。
しかし、この張はもちろん、香澄という少女は、何者なのか。
「ふふふ、ふふふふふふふ……」
張が笑うにつれて、晴れていた空がにわかに曇り出す。いや、曇るどころではない。突然空が落ちて、それと入れ替わるように夜に閉じ込められたように、周囲が暗くなる。
「これは」
「この人の妖力でこうなってるんだよ」
「落ち着いて、落ち着いて」
子どもたちは戸惑う大人たちをなだめる。
「何も見えない!」
「虎碧、離れるんじゃないよ!」
龍玉と虎碧は素早く抜剣し、背中を合わせ急な事態に備える。
「光善女王を探して、えらい目に遭ったわ!」
龍玉は忌々しく吐き捨てる。虎碧無言。
「光善女王だって!」
これに貴志が黙っていられるわけもない。この緊急事態にもかかわらず、気配を探しふたりに駆け寄る。