超越時空
と、万一の戦闘も織り込み済みのようだが。なかなか物騒なことを平気で考えるものだと貴志は内心苦笑する。
源龍は鎧に着替えて、打龍鞭を携えて。臨戦態勢だ。
「あんたは隠れてて。武装したのがいたら向こうも怖がるだろ」
「へいへい」
まるで軍師然と振る舞う羅彩女に、源龍は苦笑まじりに言うことを聞いて船室に控えた。
「こういうときゃね、女子どもを目立たせるんだよ。仏心があったら助けてやろうって気も強くなるからね」
と、香澄と子どもたちを船縁側に立たせ。
「あんたたちも手伝って」
と手招きする。
「何を馬鹿なことを」
龍玉は頬を膨らませてぷんぷんだ。虎碧は呆気に取られはしたが。
「龍お姉さん、とりあえず言うことを聞いてみましょう。悪い人じゃないみたい」
と言って香澄の横に並ぶ。
龍玉はやれやれと言いたげなため息をついて、虎碧がそう言うならと、その隣に立った。
「で、僕は?」
「あんたも隠れてて」
「……わかりました」
徹して女子どもだけを目立たせようという腹積もりだが。龍玉は思わず愚痴をこぼす。
「相手に悪心があったら襲われるじゃん」
「その時は源龍と貴志が助けてくれるし、この子、香澄も強いから大丈夫だよ」
「まるで美人局じゃないか」
「美人局って何?」
と子どもたちは素朴に疑問を抱いて。大きくなったらわかるよと羅彩女は笑顔でごまかす。
虎碧と香澄は顔を見合わせて互いに苦笑し合う。
船は近づいてくる。
その船の、遠目の利く水夫が、
「女だ、子どももいますぜ!」
などと言うから、にわかにざわめき立っているのが見えた。
「おーい、おーい」
水夫が呼びかけ。
「はーい、はーい」
と子どもたちが応じる。
「助けて! 漂流してるの!」
羅彩女は目いっぱい演技して哀れみを醸し出す。龍玉は白けた思いをたたえたジト目でそれを眺める。
(鬼を出すような魔性の女が、なにをぶりっこしてんだか)
と、声に出しそうなのを駆ろうして堪えた。
「龍お姉さん」
軽く小突かれて、はいはいと、一緒に哀れみを出そうと「助けて」と演技する。
「漂流か。待ってろ、助けてやるぞ!」
相手の船は近づいてきて、ついには接舷して渡し板が掛けられて。その上を、一番最初に渡ったのは、船の持主かお大尽というか貴公子というか。その男だった。
こちらの船に降り立って。ふむと、女子どもを眺める。
「なんで女子どもしかないのだ」
大陸部の言葉だ。龍玉と虎碧は緊張をおぼえて身が引き締まる。
「それは、色々事情があるんだよ。とにかく助けてよ!」