超越時空
船室に入り、輪になって座って。ふたりはまず饅頭菓子を渡されて。少女はじっくり味わい、女は口に放り込んで、ともにひと息ついた。
中はさすがに外より落ち着く。
「色々と話を聞きたいけど、疲れてるだろう? しばらく休んでたらいいよ」
羅彩女はふたりを気遣う。貴志と香澄は感心して、同調して笑顔で頷く。が、源龍と子どもたちは、
(相手を油断させるための芝居だな)
とか考えていた。同じように、
(あたしらを油断させようとしてるねこの女)
青い服の女は警戒を解かない。少女は感謝しつつも、同じように用心を解こうとしない。優しくながら世界樹の子どもの手を放さない。
しかし、おとなしくしていれば何もしないのは信用してもいいだろう。
「まずは、僕の名は李貴志」
貴志は自ら名を名乗った。続けて、
「私は香澄」
「……オレは源龍」
「あたしは羅彩女」
「僕はリオン」
「僕は名前は事情があって明かせないけど、世界樹の子どもで覚えていてね」
と、それぞれ名乗り。ふたりは顔を見合わせて、頷き合って、
「あたしは龍玉」
「私は虎碧です」
と名乗った。
なるほど龍と虎はそれぞれの姓だったのかと合点がいった。ことに、虎碧の碧は目の色に由来しているのか。
ふたりは大陸部の者のようだが。詳しい話はあとにして、今は休んでもらうことにして。男は出てゆき、女と子どもだけが残った。
別室に移った源龍と貴志は、背を向けあい壁に顔を向けて横になった。源龍は鎧をすぐに脱ぎ捨てたのは言うまでもない。
「わけわかんねえぜ」
思わず源龍は愚痴をこぼす。自分の意志など関係なく、問答無用で導かれるなどただただしんどいだけだ。
「……うん」
貴志はわずかに返事をしただけで無言。彼もまたただただしんどい。
女と子どもたちも無駄口は叩かず、いつしか雑魚寝をしていた。
皆船の中で戸惑いを覚えながらも、不思議にまどろみ眠りの闇に落ちていけた。
そこで元に戻っていたら、という期待もあったが。残念ながら、時が経って眠りから覚めてゆくにつれて波の音が耳に触れる。
一同外に出てみれば、周囲一面大海原であった。
「……」
海は落ち着いた凪で、船の揺れは少ない。しかしながら、気まずい沈黙のどよんとした雰囲気が周囲に垂れこめた。
龍玉と虎碧もまた、沈黙。天湖に船があり、その船が空を飛び、今は海の上。これは人間業ではない。この者たちは天魔の類かと恐怖すら覚えた。
「そんな怖がらなくていいよ」
世界樹の子どもとリオンはなだめるように笑顔で言うが、ふたりは無反応。