悪夢戦闘
「ここは?」
は、と目が覚めてみれば。自分の部屋に戻っていた。鋼鉄姑娘は机に置かれて。自分は椅子に座り、背もたれにもたれた状態で寝入っていた。
「やっぱり夢だったのか」
はあ、とため息をつく。
日もだいぶ暮れて薄暗くなってきた。貴志は燭台に火を灯そうと、火打石で火をつけて。
「まだいけるかな」
完全に暗くなる前に、自作の鋼鉄姑娘を少しでも読み直そうと、本を開いた。
「……あれ?」
おかしなことになっている。書いていないはずの人物が、書かれていたのだ。硬鞭の使い手の、源龍という江湖の剣客の話で。
籠城戦のどたばたの中で武将から硬鞭を奪い取り、それをそのまま自分の得物にしているのである。
「おかしいな。こんな話書いてないぞ」
どういうことなんだ。慌てて表紙を見たが、鋼鉄姑娘である。本を間違えたということはない。
そういえば、人の気配がしない。留学生の寮である。何かしらの物音がしているが、やけに静かで、同室の学友もいない。
「って、おいおい……」
ひゅう、と風が吹き。火を消してしまった。もう真っ暗になって、かろうじて手と本が見えるのみだ。が、にわかに闇は濃さを増し、手も本も見えなくする。
闇に飲まれるように。
(うわあ、もう真っ暗だ)
手探りで火打石を探そうとするが、なかなか見つからない。わからないところに置いていないはずなのだが。
「ああ、また睡魔が……」
闇に心まで飲まれてしまったか、にわかに睡魔に襲われて。抗しがたく、そのまま本を枕に寝入ってしまう。
と思いきや。
「おい」
と、軽く頬を叩かれて。そこで目が覚め、目を開いて上半身を起こせば。
「……」
貴志は自分のいる場所が信じられなかった。
目に飛び込むのは、人ならぬ怪物。
「のんびり寝ている暇はないぞ!」
自分は薄暗い崖下の谷底におり、硬鞭を持つ男がそばにおり。また、あらぬものが目に飛び込む。
それは、人ならぬ怪物。それは人型だが頭はなく、胴から下しかない。にもかかわらず、体躯は人の二倍はあるかという背丈に、筋肉質で筋骨隆々とし。大斧を担いでいる。
服は下半身のみ履いて、上半身は筋肉を見せつけるように裸であるが。その胸に目が、みぞおちに鼻、腹には牙の生えた大口が開けられている。
「刑天!」
貴志は仰天して、刑天なる魔物をまじまじと見やった。
「僕は悪夢を見ているのか」
「おめえも運がねえな、香澄やあの餓鬼どもにつかまったか」
「え?」
「オレは源龍だ、お前は?」
「源龍!?」
なぜか自分の作品にあった名前だ。その名の男が、目の前にいる。