超越時空
「……消えな」
眉をしかめて言えば、鬼は消えた。
「……あんたの言う通りだね。でもどうせなら」
「鬼を操れるようになったんだよ。これも何かで役に立つかもしれないよ」
世界樹の子どもがにこりと言い。羅彩女は、苦笑し「はいはい」と頷く。世界樹はまことつかみどころがない。
「って言うか、他にもあるよ、リオン、あんた船を飛ばせるんでしょ!」
今度はリオンの小さな肩を掴んで、人ながら鬼気迫る面持ちで迫った。
「あ、思い出した?」
「思い出した? じゃないよ。まさか思い出すまで知らん顔するつもりだったのかい?」
「うん」
「うん、って……」
迫られながらも平然と笑顔のままで。リオンは頷く。
「じゃあ今すぐここから出してくれ!」
寝てた源龍も起き、貴志も一緒になってリオンに迫る。
リオンも「わかったよ」と言いそうになった時。にわかに強めに風が吹いて、張られていた帆ははためき、船は進む。
「んん?」
不意の事で、香澄を除く皆よろけて。船はぐんぐんと火口の縁に迫る。何を思ったのか、香澄は船首に立ち。跳躍して、火口の縁に降り立った。
なんのつもりだと様子を窺えば。
「誰?」
などと、わざわざ大きな声で、誰と言う。
その間も船は風に流されて火口の縁に迫り、船首が浅瀬に乗って止まった。火口の縁も近く、源龍と貴志、羅彩女も跳躍して降り立った。
見れば、人がいる。ふたり。
香澄は咄嗟に七星剣を抜き放った。剣身と、七つの紫の珠が陽光に反射して煌めく。
「龍お姉さん!」
「ええ、なにあれ!?」
火口までの斜面を登ってくる人影がふたりあったが、その姿が見えてきて、声も聞こえてくる。ふたりとも女のようだった。
ひとりは赤い服を着たあどけなさの残る少女で、もうひとりは青い服で少女よりいくらか年上の女だった。
ふたりして船を指さし、たいそう驚いているが。向こうもこっちに気付いて、
「人がいる!」
と驚く。
「なんだありゃ?」
源龍は拍子が抜けた様子だった。天頭山教の教徒が山頂火口まで上ってきてるのかと思いきや。が、しかし。
「ありゃ玄人だね」
羅彩女は言う。貴志も頷く。
ふと、鼻に何か触れるような臭い。腐った卵のような。
「早くここを出なきゃ!」
そうなのだ、ここ以外に火口があり。そこからは噴煙が噴き出しているのだ。さっきまで気にならなかったのは、風向きのおかげだったが。風向きが変わって臭いがこちらに来るようになった。
その噴煙は臭いだけではない。喉や肺も傷つけ、ひどければ命に係わる。まさに瘴気であった。