再次夢想
辰へは海路で帰る。使者も海路で暁星にやってきたのだ。あの船は暁星の方で修復してから返してくれると言う。ちなみに、諸葛湘の送った密偵は、帰ってくるのを待つしかない。公主の件は落着したが、他に何かしらの重大事があり、それを見つけてくれるかもしれないと期待もしながら。
が、しかし、いざ港に来てみれば、その船もない!
港は大騒ぎであった。係留しているはずの辰の船が忽然と消えていたのだから。これには劉開華と公孫真は顔を見合わせて、
「まさか、世界樹?」
とささやき合った。いくらなんでも大きな船を人知れず消すなど、人間離れした業である。船の盗難は世の中にあるにはあるが、厳重な警備をかいくぐって、大きな船を盗んでゆけるだろうか。
警備の任に当たった者たちも、物の怪に化かされたのかと、不思議がるばかり。
港には公主に先んじて雄王と安陽女王に諸葛湘も来ており、見送りの支度がなされていたが。船がなくなっていたことで落ち着かない様子であった。
「なってしまったものは仕方がありません。神仏から我らへのなんらかのお計らいかもしれません」
「だとよいのですが」
物憂げな雄王に対し、劉開華は船が消えたのを不問にし、使者の船に乗った。
よい風が吹き、帆も張られて。船は波を蹴って辰にゆく。周囲には水軍将軍、李瞬志率いる戦艦、亀甲船が三隻、公主の船を護衛しともに航海する。
遠ざかる船を見送る暁星の人々。思い出を振り切るように遠ざかる港から目をそらし、空を見上げる辰の青藍公主。
「世界樹はとらえどころがないわ」
と、ぽそっとつぶやいた。
波は穏やかで、落ち着いた航海だった。水夫も、
「こんな落ち着いた海はめったにない」
と驚くほど、波は穏やかだった。おかげで船酔いに悩まされることはなかった。
夜になり、あてがわれた船室で眠りにつけば……。
「あ、世界樹!」
劉開華と公孫真は世界樹の木陰の中におり、そばには、世界樹の子どもとリオンがにこにこと。
「やっぱり世界樹の仕業!?」
劉開華はなんの前置きもなく、世界樹の子どもとリオンに詰め寄った。
「そうだよ」
隠しも誤魔化しもせず、そのまま、肯定した。
「皆さんはどこに?」
「それは秘密」
世界樹の子どもはにこりと、意地悪にこれは隠した。リオンもにこにことしながら、何も言わない。
公孫真もやきもきしているようだ。それ以上に、
「このような事情があったとは。皆さんを疑った自分が恥ずかしい」
と自らを恥じる。
「まあまあ、ここでゆっくり休んでいきなよ」
気が付けば、周囲には子どもたちが溢れていた。年のころは五歳から十二歳くらいまでの子どもばかり。ただ、目の色や髪の色、肌の色は様々だった。
「……」
「……」
劉開華と公孫真は周囲を見渡し、世界樹を見上げて。色んな意味で観念して、その場に座って。
「お姉さん、おじさん、どうぞ」
と、どこから持ってきたのか、茶と菓子を振る舞われて。ありがたくいただくことにした。
夢の中にいることを忘れてしまうほど、他の面々のことが気になりつつ、茶と菓子をじっくりと味わう。
「再次夢想……。また、夢なのね」
劉開華はぽつりとつぶやいた。
世界樹は黙して語らず、それを見守っていた。
再次夢想 終わり