表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
146/539

再次夢想

 夢を通じて突拍子もない所に飛ばされてきたわけだが、さて次はどこに飛ばされるのか。

「大変だけど、公主のためだよ。またひと頑張りしなきゃ」

「公主のため?」

 貴志フィチは不思議そうにする。

「それなら僕が守る」

 文学の志をひとまず置いてその決心をしたのだ。それではまだ駄目なのか。そしてその駄目を肯定するように、子どもたちは首を横に振った。

 ひとつ怒鳴り散らしてやろうと思った源龍げんりゅうだったが、公主がらみと聞いてとりあえず黙った。羅彩女らさいにょは眉をしかめている。

 世界樹の子どもとリオンは顔を見合わせて、一同を見て頷き合い。香澄こうちょうも様子を見守る。

 世界樹は黙して語らず。

 ふと自分たちの服装を見た。子どもたちは緑の服に緑のとんがり帽をかぶっている。源龍は黒い鎧にそばには打龍鞭だりゅうべんが置かれ。羅彩女は赤い服を着て、桃の木剣が置かれて。貴志は暁星ヒョスンの私服だが、天下がそばに置かれて。

 香澄は紫の衣を着、そばには鞘に収まる七星剣。

 きーん、と耳鳴りがした。

「ゆけ、戦え、救え」

 そんな声がした。どこから聞こえたのか。男なのか女なのか若いのか老いているのかわからないが、とにかくそんな声が聞こえた。

 おそらく世界樹の声であろうが、もったいぶるものだと思った。なんともとらえどころのないものである。

 そう考える間もなく、すとん、と落ちるように目が閉じられて。眠りに入った。

 ……。

 ……。

 ……。

 深い闇の中、夢を見ることもなく、眠った。沈むように眠った。

 どれほどの時を経たか。はっ、と弾かれるように目が開いて、咄嗟に起き上がってみれば。

 源龍、貴志、羅彩女、そして香澄と世界樹の子どもにリオンがいて。それらはなにか木造の部屋にいた。

 見覚えのある部屋だった。

「ここはどこだ?」

 源龍はきょろきょろし、貴志は、

「見覚えがあるな」

 とつぶやけば、羅彩女は、あっ、と声を上げ、

「あの船の船室だよ!」

 と叫ぶように言う。

 扉があり、それを開けて外に出てみれば。

「……」 

 三人は絶句し、続いて出て来た香澄と世界樹の子どもとリオンは、そうなるよね、と同情するように微笑んで頷く。

「ここは天湖チェホじゃねえか!」

 なんと、あの時のように天湖に浮かぶ船の上にいるではないか。


「ではおひいさま、ゆきましょう」

 李家イけの屋敷の軒先にて、馬車の前で公孫真こうそんしん劉開華りゅうかいかに言った。

 公主は力なくうなずいて馬車に乗った。

 いなかった、側近になってくれるはずの貴志に、源龍と羅彩女、香澄に子どもたちが。いなくなっていた。

 宴から一夜明け、最後の身支度を整えねばならぬというのにそれぞれの部屋から誰も出ない。おかしいと思い、中を覗いてみれば、いなかった。

「これは!」

 李家の者たちは唖然とし、絶句するしかなかった。一体何の故あって姿を消したのか。

「まさか臆したのか!」

 天を突くように瞬志スンチは怒りをあらわにした。

 太定テチョン星連スンニョンに兄弟四人、ひたすら詫びるしかなかった。

 劉開華はため息をついた。

(どうして)

 戸惑いは禁じ得ない。友だと思っていたのに、この、土壇場になっての裏切りは。公孫真も怒りを禁じ得ない。

「そんな人たちだったのですな」

 決断は早かった。

「それならば、最初からいなかったものとして、ゆきましょう。我らにはなすべき大義があれば」

 劉開華も頷いた。涙をこらえて、辰に戻るのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ