再次夢想
と三男の志明が言い。四男の志徳も、
「お前の望む通り、文学にも生きられるのではないか」
とも言う。
(僕が書きたいのは小説なんだけどな……)
文を愛するものとして、文で生きられるのは嬉しいことだが。文にも種類があるもので。貴志が記したいのは、天下国家ではなく、空想であった。なぜそうなるのかは、本人にもわからぬ。
それこそ、世界樹のお導き、とも言えた。
「よおよお」
扉を開けて、無造作に入ってくるのは源龍であった。兄たちは警戒し、貴志は助け船を出してくれるのかと思って期待したが。
「姫さんが話がしたいってよ」
と言えば、劉開華が部屋に入ってきて。源龍はさっさと行ってしまった。
(もう逃げられないか)
貴志は観念した。
公孫真ももちろんいる。
「貴志さん、いえ李貴志殿」
改まって彼女は貴志を見据える。
「率直に言います。私の側近になってください」
兄たちは「おお」と声を上げ、貴志はぽかんとしてしまった。異国からの留学生が公主の側近になるなど、大抜擢も大抜擢であり。名誉なことであった。
しかし、貴志が思ったことは、
(もう逃げられない)
であった。
「……はい」
力なく跪き、側近の話を受け入れた。末弟に詰めていた兄たちも、貴志とともに跪いて。
「李家にとってもまたとない名誉! 公主さま、まことにありがとうございます!」
と合唱するように感謝の言葉を述べた。
「ご苦労をおかけしますが、頼みます」
劉開華はあの闊達な少女ではない。一国の公主として振る舞い、軽い口もたたかない。
話は決まった。さて、他の面々である。
「源龍殿にもこの話をしたかったのですが、事情ゆえにできず。貴志殿にしかできぬ話で」
と申し訳なさそうに言う。貴志の場合は暁星の宰相の子であることにくわえて王族でもあり、身分としては申し分ないが。他の面々は在野の、江湖の者である。公主がそばに置くには、難しい。
彼女もやはり不安はあった。頼れる者にそばにいてほしかった。
「あ、勘違いしないでください。源龍殿や羅彩女殿、香澄殿に子どもたちのこと、私にとっても大切な友であります」
その眼から一筋の涙が流れ落ちた。ひとりの人間として、縁あって出会った友とともに生きたいという願望を消すことはできなかった。しかし、公主として国を守ろうとすれば……。
公孫真も悲痛さを隠しきれぬようで。彼にとってもこの出会いは良縁で、いつまでも続いてほしかったものだった。
その涙が決め手となった。
(相当のお覚悟だ。公主を守ってゆこう)