再次夢想
と思った。父と母の心労も重なっているだろうし。なにより、あの、鄭拓。忠臣を装いながら下心があるのはわかっている。
(逃げてはいけないわ)
決心した。
「辰に帰ります」
「おお」
思わず使者と諸葛湘は声を出してしまった。
「色々とあるでしょうが、父上と母上と話をしたいと思います」
「よくぞご決断なされました」
後ろに控える公孫真は胸を痛める。公主は覚悟を決めたのだと。まだあどけない少女の身でありながら。
(何があろうとも、公主をお守りしよう!)
彼も覚悟を決めた。
話が決まれば早かった。使者と公主の謁見は終わり。すぐに李家の屋敷に戻り、帰り支度が進められる。
劉開華は公孫真をともない、屋敷詰めの家来や召使の女性たちに「お世話になりました」と挨拶をして回った。
辰の公主のこの振る舞いに、気さくな方だとは思っていたが、
(まこと、名君の器)
と感歎させられることしきりであった。
この時、志烈、志明、志徳も李家の屋敷に帰り。末弟の貴志と久しぶりの再会をし。
「お前も辰にゆけ」
と、長兄の瞬志とともに留学先の辰へ戻るよううながした。本を詰めた本棚がぎっしり並ぶ貴志の部屋に兄たちが押しかけて、である。
「兄さん、本音を言います。僕は文学に生きたいんです」
貴志は思い切って胸の内を語った。しかし。
「文学など」
と、つれない反応をされる。
「ただゆけと言うのではない。公主さまを陰ながらお守りせよということでもある」
「お前はそれだけの素質を備えている。私がやろうとしても、武に疎い文官なれば、無理なことだ」
と言うのは次男の志烈であった。彼は文官としての素質はあったが、武には疎い。瞬志は瞬志で、
「オレは武辺一本だからな……」
と言い。兄四人は八つの目で貴志を見据え。
「文武双方の素質を持つお前にしか託せぬ大役なのだ」
と言う。
貴志は兄たちの言葉に仰天もした。なにせ本の虫とどこか見くびられているところもあったから。しかし、光燕世子や鬼どもとの一件で、貴志の秘められた力を瞬志は知り、そこから見方が変わった。
また権力や政権のというものは一筋縄ではいかない世界というのも、宮仕えをして身に染みて。公主の身を案じること尽きなかった。だから、親しい貴志に守ってほしいと。
「……」
貴志は何も言えなかった。公主とは成り行きとはいえ、身分の差を越えた親しみがあった。友達、仲間、そして戦友。さまざまな思いがあるのは確かだ。
「お前は文人としての素養がある。公主にもちいられて、辰の歴史を記す大役も仰せつかるかもしれぬぞ」