再次夢想
貴志も嫌いとはいえ武術の素質のある身、源龍のよき稽古相手を数日はしっかりつとめてしまった。
が、ふと、
「あ、そうか、怒らせて僕を乗せたな!」
と見抜き、以後何を言われようとも部屋にこもり本を手に、稽古相手はしなかった。劉開華や公孫真が、なんならと相手を買って出るが。
「わりいが、オレの稽古相手は貴志じゃなきゃつとまらねえよ」
と、無遠慮に言ってのけ。羅彩女はまるで母親のように、
「公主に失礼だろ!」
と説教するが。源龍はだってようと受け流し。劉開華と公孫真は苦笑しながらも、まあ源龍の言う通りと受け入れた。
そこで代わりを果たしたのが、
「私ならどう?」
といたずらっぽく笑みを浮かべる香澄だった。
源龍は香澄を稽古相手にするのを避けているようだったが。
「まさか怖いのかい?」
と、貴志はさりげない反撃を食らわし。源龍は乗ってしまって、香澄を相手に打龍鞭を振るって稽古・鍛錬に励んだ。
稽古とは言え、見応えのあるもので、皆それをよい暇つぶしにして見物をした。
ともあれ、太定のはからいもあって、皆なんやかやで李家の屋敷での生活を満喫した。劉開華は時に雄王に誘われて、安陽女王とともに茶を嗜んだり、宮殿の歌舞団の歌と踊りを堪能したりもし。
こんな日々が、ずっとこのまま続いてくれてもいいとさえ思ったが。
そうは問屋が卸さないもの。
宮殿に至急お越しくださいと諸葛湘がやって来た。辰からの使者がついに来たという。
その日は秋雨だった。それぞれ部屋で思い思いに過ごしていたが、一気に緊張が走った。
出発の前に皆で集まった。
「では皆さん、行ってきます」
「私もついておりますれば」
劉開華は他の面々に一礼をして、公孫真を伴い、馬車に乗り。諸葛湘に導かれて宮殿にゆき。貴志らはそれを見送った。
雨の中でも、復興の槌音がしていた。被害は甚大と聞いたが、少しでも早くと、雨の日でも作業をしているのかと思うと、胸に迫るものがあった。
宮殿に着けば、王の間で、女王の座に着き。後ろに公孫真が控えて。
辰からの使者を上段から見下ろす。雄王と安陽女王も使者の横に並ぶ。
「まさか公主さまが暁星にお越しとは夢にも思わぬことでした。我ら臣下一同、心配をしていましたが。お元気そうで何よりです。」
「それで、辰は、王宮の様子は?」
「はい、悲しいことに皇太子は亡くなられました」
(ああ、やはり)
あの戦いで、突然兄の鬼が出現して。わかってはいたが改めて報告を受けると、胸が痛んだ。