夢想引導
が、素早くさけられ。
その一瞬の隙を突いて、貴志は素早く回れ右して駆け出した。
「いちいち相手にしていられないよ!」
ここがどこだかわからないが、とにかく少女から逃げないと、と貴志は駆けた。遮二無二に駆けた。
しかし、行けども行けども、白い霧の中。方向感覚も狂い。白い霧の中、虚無感に襲われて。足の動きも鈍ってくる。
「畜生! 夢なら覚めてくれ!」
「つかまえたッ!」
「うわあーーー!!」
突然、足に何かがしがみついて、驚きのあまり叫んでしまった。なんだと思って見れば、なんと子供が自分の足にしがみついているではないか。
「え、いつの間に!」
気配は感じなかった。それは子どもゆえなのかどうか。ともあれ、貴志は一瞬動きを封じられてしまった。同時に、あの少女が眼前まで迫ってきた。
「あッ!」
七星剣が貴志の胸を貫く。
(ああ、李貴志よ李貴志、お前は志半ばで果てるのか)
これを夢だと思いたいが、どうにも夢ではなさそうで。剣は心臓を貫き。貴志は薄れゆく意識の中、剣が抜かれるのを感じ。そのまま膝から崩れ落ちた。
「あれ」
足にしがみついた子どもは、緑のとんがり帽子に服の、金髪碧眼の子どもは、貴志を眺めて。目に涙がにじんでいるのを見て。
「泣いてる」
と、ぽそりとつぶやいた。
少女は何も言わず、剣を鞘に納めて、黙って手を合わせた。
「香澄は優しいね」
子どもも、少女、香澄とともに手を合わせた。
夢想引導 終わり