再次夢想
それからは、おのおの通常の政務に戻った。水軍の将軍である瞬志は王の許しを得て、漢星滞在を認められ。亀甲船団は信頼する部下に託した。
数日が経った。
あの激闘、騒乱が嘘のように鎮まって。今は復興の槌音が漢星のところどころで響き、人も活気が戻ってきつつあった。
そんな中の、ある日、今日は秋夕であるという。
朝夕に、干柿をお供え物として上げ、茶礼という先祖を供養する儀式を執り行い。秋の衣替えに新しい服を出し。
月夜に女性たちが輪になって踊った。
李家の古い召使いは皆亡くなってしまったが、新しく来た召使いたちは、庭に出て月下に歌いながら輪になって踊った。
その輪の中に、劉開華や香澄、羅彩女も混ぜてもらった。
劉開華は静かに日々を過ごす中で落ち着きも取り戻し、笑顔も増えてきて。それを眺める男性陣、ことに公孫真の安堵は大きかった。
この時期には松葉餅が振る舞われて。
「美味い美味い」
と源龍は満足そうにたくさん食し。
「食いしん坊だなあ」
と貴志はおかしそうにつまんだ。つまみながら。
(小説を書きたいなあ)
武侠小説・鋼鉄姑娘の出来栄えには満足していない。必死に書き上げたがつまらないを連発されて。それをどうにか見返してやりたかったが。なかなか執筆にとりかかれないのがもどかしかった。
その翌日、ゆっくり休んで落ち着いた劉開華は公孫真をともない宮殿に赴き、雄王と安陽女王と面会をした。李家の屋敷から宮殿までは瞬志とその手勢が護衛の任に当たった。
高貴も高貴、やんごとなき姫君であるということで、窓から外を覗くことも戒められた。
「窮屈な思いをさせますが、どうかお堪えくだされ」
瞬志らしく堂々と言い、劉開華は頷く。相手が誰であろうが卑屈にならぬ武士ならばと、信頼を置けた。また、
「世子のことは、どうかご内密に」
とも言う。瞬志としては、こんなことを言うのは恥ずかしいことだったが。言わねばならぬ難しさよと忸怩たる気持ちを禁じ得なかった。それに対して、
「わかりました」
と劉開華は頷いた。
他の面々は屋敷で留守である。
ともあれ、立派なたたずまいの宮殿に足を運び謁見の間で立ち並ぶ臣下らと雄王と安陽女王と面会した。
雄王と安陽女王は王座から下り、劉開華に譲った。宗主国の公主である。礼儀の面で、雄王と安陽女王は座を譲り。劉開華も断ろうと思ったが、礼儀を無下にできず、女王の座に着いた。
この面会の場には諸葛湘もおり、通訳も務める。公孫真は女王の座の後ろに小姓のようにたたずんで控える。