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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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翼虎飛翔

 彼女はあらゆる手を尽くして、志をなそうとしたのだろう。

 しかし、その結果を見て、おおいいに心が揺れ動き、自らの過ちを認めざるを得ないようだった。

 光燕世子のなきがらを見つめて、それから顔を上げて、翼虎を見上げた。

 勝利の喜びはなく、騒乱の悲しみがあることは、聖智も察した。得物である軟鞭を放り投げて捨てた。

「もういらぬ」

 ふところから匕首を取り出し。貴志と公孫真は、まさか自害をするのかとはっとしたが。彼女はその匕首で、突然髪を切り落とす。

 艶のよい黒髪が、ばさりと落ちる。髪を短く切り落とした彼女は、

「私は志を捨て、出家し尼になり、私のために死んだ者たちの供養をしよう」

 そう言って、力なく歩き出し。匕首も軟鞭のように捨てた。

 誰も止めない。

 出家とは、天頭山教に戻らずいずこかの尼寺にゆくのであろう。その様子から嘘ではなさそうだと、その言を信じ、そのまま行かせる。

 それと入れ替わりに翼虎が降りて、源龍と香澄はその背から降り。

「ありがとうよ」

「カムサハムニダ」

 両者、篤く礼を言う。香澄は気を利かせて暁星の言葉で礼を言う。翼虎は猫のようにさえずり、源龍と香澄に頬ずりする。

「おいおい、よせやい」

「まあ、くすぐったい」

 両者照れるように笑みを浮かべ、お返しに翼虎の頭をなでた。まるで長年付き添ったようだった。

 それから翼虎は顔を上げて、空を見上げると、翼を広げて。

 一気に跳躍し、空高く飛んだ。高く高く飛んで、太陽を覆い隠さんがばかりに翼も広げて。

 その雄姿を源龍と香澄、そのほかの面々、泣ける劉開華も顔を見上げて、太陽の光を後光にせんがばかりの翼虎を見つめた。

 翼虎飛び立つとき、一陣の風が起こり。それが心地よく身体をなでた。

 翼虎の咆哮が轟く、それとともに、さらに風は強く起こり。

 風は、漢星ハンスンに吹き流れて。

 出火の炎は風に流されて、散るように消えていった。風は火を広げかねないものなのだが、翼虎の起こす風は火を消した。

「翼虎だ!」

 そんな声がところどころで響き、人々は上空高く、太陽を背にする翼虎を見上げた。

 まさか、そんな、何かの別の鳥だろう、という声もあったが。翼虎だ、あれはたしかに翼虎だ、という声も多かった。

 翼虎だと言う者のほとんどが、昔の白羅時代の伝説、光善女王の翼虎伝説を思い起こし。

「光善女王が我らを守り給うた!」

 と、跪いた者も多かった。

 このことは瞬く間に広がり、宮殿に籠る雄王ウンワン李太定イテチョンの知るところとなり。急いで中庭に出て、空を見上げたが。

 それらしき姿は見当たらなかった。


翼虎飛翔 終わり

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