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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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翼虎飛翔

 同時に青白い炎の鬼の姿の劉賢が身体から飛び出し。

「そうだ!」

 と妹に迫った。

「開華よ、我が依り代となれ! 我とひとつになろう!」 

「もうやめてお兄さま!」

 依り代から解かれても、絶命してしまった光燕世子の身体は落下して地面に打ち付けられて。そのまま虚ろな目で横たわって。南達聖智はしかし、何の反応も示さない。ただ虚しくため息をつくのみ。

 翼虎は急降下し、低空飛行し、鬼の劉賢に迫るが。

 それより早く、貴志は木剣を投げ放ち、劉開華はそれを受け取るとともに刺突の構えで自らに迫る鬼の兄向かって駆けて。

「開華、開華、開華ぁー!」

 劉賢は叫んだ。その叫びを放つ口に、木剣が突き刺さった。劉開華は泣いた、泣きながら鬼の兄に木剣を突き立てたのだ。

「あば、あばばばばばばば……」

 何を言っているのかわからぬ体で、鬼の劉賢は口に木剣を突き立てられたままぶるぶると震えて。

 青白い炎は弾ける泡となって、霧散して、風に流されて、消えていった。

 同時に劉開華も崩れ落ち、泣いた。勝利の喜びはなく。ただ悲しみだけがあった。幼き日、共に遊んだ日々が思い出されて。それが悲しみを重ねた。

 決着を見て再び上昇した翼虎と、その背の源龍と香澄は地上の様子を眺める。

「ひでえもんだぜ」

 鬼こそなくなったものの、ところどころ出火してその消火作業や、負傷者の救援などで騒乱はいまだ続いていた。

「……、や」

 瞬志の身体から不快感と異様な硬さが去り、力が戻り、起き上がれるようになった。同時に、意識を失って横たわる母のもとに駆けて、抱き上げ、屋敷の中にゆく。

「相変わらず気の利かぬやつよ」

 ことが済んで、ついぼおっとしてしまった貴志は兄の動作を見てはっとして、忸怩たる気持ちを示したが。まあいいと、瞬志はうなずき、屋敷に行く。朱家夫妻も瞬志に促されて、屋敷にゆく。

 木剣を落とし、泣き崩れる劉開華のそばに羅彩女と朱麗が付き添う。公孫真と子どもたちは適度な距離を取ってその様子を見守る。

 いつの間にか、聖智は光燕世子のなきがらのそばに立つ。貴志と公孫真は注視するが、気を感じられぬ。もはや彼女に戦う意志はなくなっていた。それどころか、ひどい虚しさを感じてやまぬようだ。

(考えてみれば、彼女も哀れな)

 どのような生い立ちか知らぬが、古代の王国・耶羅の王族の末裔として生まれ、育てられて、故国復興を叩きこまれてきたのであろう。昔の国を復興させようと目論む末裔は珍しい事ではないが……。

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