翼虎飛翔
火炎の追跡がなくなって翼虎はふたたび上昇する。低空飛行し上昇するまでの間、一陣の風が一同を包み込んだ。
秋の風そのものの、心地よさだった。
(世子に抱かれている時も、このような心地よさを感じることはなかったのに)
聖智は己の身をなでる風を感じて。自らの過ちを痛感せずにはいられなかった。
劉賢は、
「小癪な!」
青白い炎をめらめらと燃え上がらせて。迫る翼虎向かって飛んだ。正面衝突も辞さぬと言わんがばかりに。
「あれ、香澄!」
貴志はいつの間にか香澄が源龍の背中につかまって、ともに翼虎の背に乗っているのを見て、驚かされる。
「いつの間に……」
言いながら、顔が変な笑みを浮かべようとする。源龍はそれどころではない。
「なんでお前も乗るんだよ!」
突然背中にしがみつかれて。何事かと思えば、香澄。背から胴へ左腕をまわして、右手に七星剣。
重さが増して、翼虎も飛びづらそうかもしれないが。そんなの関係なさそうに飛んでいる。
「む、あの娘か!」
鬼となって得た力をもちいて、並の得物など効かぬように依り代の身体を変えたはずだが、なぜかあの娘の得物には傷つけられて。
香澄は何も言わず、笑顔で源龍の背につかまる。それを見上げる羅彩女は、
「ちょ、ちょ、なんで香澄が」
と、穏やかではない。
それは劉賢も同じだった。
「ええい、忌々しい」
急に方向転換して、背中を見せて逃げ出す。よほど七星剣に傷つけられたことが堪えているようだ。
翼虎は速度を増し、劉賢を追った。
「逃がすか!」
源龍は打龍鞭を振るって風弾を放ち。それは劉賢の背に当たる。
「むっ!」
当たるや、止まり。振り返る。
「私は未来の皇帝。逃げてはならぬ!」
効かぬとは言え、劉賢は風弾が当たったことで自らの誇りが傷つけられ、許さぬと、意を決して反転して翼虎に迫る。対峙して、翼虎は咆哮し。源龍と香澄は風と共に咆哮にも包まれる。
青白い炎に身を包まれて、その炎が伸び、右手に掴まれて炎の剣のようになっている。
互いの顔がはっきりと見える距離まで迫り、途端に源龍の背中が軽くなった感触。胴に手が回されたのが離れた。見れば、香澄は頭上高く跳躍していた。
「小娘め!」
劉賢の炎の剣が鞭のように伸び、頭上の香澄に迫る。七星剣閃けば、さきほどの火炎のように刃は炎の剣を断ち、それから風に流されて炎は霧のように散って消えた。
「だからなんだ!」
太く青い血管の浮かぶ顔の口を大きく開け、もろ手を広げ、青白い炎に包まれた身体で香澄に迫って、しがみつこうとする。