翼虎飛翔
「うおお!」
振り落とされないように脚を締める。風が当たり、風を切る。打龍鞭を握る手に力がこもる。翼虎と源龍は一陣の風になった。
「すごい、源龍さんすごい!」
「なかなか様になってるじゃないか」
劉開華と羅彩女はひたすら感歎する。そして胸中に希望が芽生える。朱家の親子や瞬志も、翼虎に跨る源龍の姿に胸を突かれるものを覚えた。
貴志は天下を握りしめ、
「頼むぞ」
とすべてを託した。
子どもたちと香澄は笑顔でそれらを見つめる。
「なんという、なんという……」
顔に浮かぶふとい血管すらわなわなと振るわせて、青白い炎もゆらぎ。劉賢は迫る翼虎と源龍を歯噛みして睨む。鬼になった己には無限の力があり、その力をもって天下を取り、妹を得られると思っていたが。
「私の邪魔をする者は、なんぴとたりとも許しはせぬ!」
三つの火の玉を撃つ。翼虎と源龍に迫る。
「来るなら来やがれ!」
源龍は構えて、迫る火の玉を見据え。思い切り打龍鞭を振るえば。火の玉ことごとく弾き飛ばされ、それにともない霧のように消えてなくなってゆく。
「すげえ、こいつに跨ると力が増すのか」
源龍ただ感心。劉賢は火の玉が消されるのを見て、忌々しく舌打ちして逃れようとする。しかし逃がさぬと翼虎は追う。
翼虎は咆哮した。空を震わし、蒼天を突き、太陽すら揺るがせるかのような咆哮であった。
咆哮は風を切る源龍の心身を包み込み、魂をも震わせた。
「おお、光善女王が我らを守り給うておられる」
翼虎伝説の光善女王を敬愛する瞬志は倒れながら歓喜の涙を流す。同時に、死してもなお争う、人の争う心に改めて心を痛めた。
天頭山大噴火の前には高蒙という国が治めていたが、大噴火の惨事によって世は修羅の巷と化して滅び。群雄割拠の時代になった。耶羅もそんなときに興った国のひとつだった。
その群雄割拠の時代を終わらせたのは白羅ではあったが。その時代もやがて終わり、また群雄割拠の時代に逆戻りし、紆余曲折を経て今は暁星が治めている。
しかしそれもいつまでのことか、と。
「永遠の国はないかもしれないけれど、人は永遠なり。ならばまことに残すは人の心なり」
ぽそっと、貴志はつぶやいた。
「……なぜ私が逃げねばならぬ!」
突然現れた翼虎に、消された火の玉を見て思わず逃げ出してしまったが。そのことにはっと気付いて。素早く反転して翼虎と、それに跨る源龍と対峙し。
太く青い血管の浮かぶ顔の眼や鼻に口を大きく開けて突進し。突進しざまに身を包む青白い炎は量を増した。