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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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血腥魂哭

 ふと、鼻を血の臭いがなでるような感触におそわれる。

 魂が血腥ちなまぐさくも哭いている。そう思わずにはいられなかった。

 天下の筆先はもうすっかり赤く染まった。それを掲げて、宙に何かを書く動作を見せた。辰の宮殿で天下の字を現出させたあの時のように。

 そうすれば、墨の代わりとされた血は宙に浮かぶ。それは字ではない、字とは別の何かの姿を描いていた。

 素早い動作で描きあげられるそれは、翼をもち、さらにその身は虎。翼をもった虎、翼虎であった。

「出でよ、翼虎!」

 貴志の叫びに呼応するかのように、宙に描かれた赤い翼虎は光を放ち、光に包まれ。その次に、肉体を持つ一個の存在となって姿を現した。

「これは!」

 公孫真は思わず声をあげる。その他の面々は茫然とするが、子どもたちと香澄は微笑んだ。

「強い思いとは、そのことだったのか」

 夢の中で世界樹は、翼虎と出会うには強い思いだと語ったのを思い出したが。まさに、強い思いによって翼虎は現出させられたのであった。

「なんだ、これは」 

 まさかのことにさすがの劉賢も驚きを禁じ得なかった。

 翼虎は空を見上げ、吠えた。その声はくうを揺らし、天すらも突かんがばかりの響き、轟きであり。

 それを見守る一同の耳にも轟き、心に響き。肝も突いた。

 翼虎の咆哮に呼応するかのように、家来や召使の鬼も慟哭し。風に流されるように飛び、その口の中に吸い込まれてゆく。

 鬼を取り込んだ翼虎は翼をはためかせて飛翔した。

 劉賢よりも高く高く、空高く漢星の上空を舞う翼虎を、地上の面々はただ見上げるしかなかった。

 空にのぼる太陽を覆わんがばかりに翼を広げ。陽光を後光として我が身を地上に見せつける。

 翼虎は鬼の襲撃に遭い修羅場と化した漢星を見下ろし、急降下する。

 さすればたちまちのうちに一陣の風起こり。地上に湧現した鬼どもを吹き飛ばしてゆくではないか。

「なんだと!」

 劉賢は歯噛みし、己が湧現させた鬼が消滅させられてゆくのを眺めるしかなかった。

 屋敷の壁に囲まれた面々にはよくわからないとはいえ、雰囲気の変化は感じ取ることはできた。

 翼虎は悪い鬼どもを一掃するや、すぐさま李家の屋敷に戻り。源龍のそばで着地した。

「うおお……」

 目の前の翼虎の、己の背丈よりも上から見下ろされるその眼の力に思わず圧されてしまう。それこそ、このまま食われてしまうのかと。

 しかし、翼虎は源龍を取って食おうとするのではなく、軽くさえずる。

「なんだ?」

「源龍、翼虎に乗るんだ!」

「なに……? ええい、ままよ!」

 思い切って跳躍すれば、翼虎は着地しやすいように脚を曲げて。源龍はその背に跨った。

 その刹那に、翼をはためかせて飛び上がる。


血腥魂哭 終わり

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