血腥魂哭
それは劉開華に公孫真、瞬志と朱家親子も同じだった。母の星連と天君こと南達聖智は今も意識を失って横たわったまま。
「ついにいかれやがったか」
源龍は言いつつ、劉賢に迫る。香澄も無言で続く。
「ふん、そんなに私にかまってほしいのか」
嫌味を言いながら、迫る打龍鞭や七星剣をかわす。火の玉にも襲わせない。敢えて何もせず、相手に攻めさせて、それをかわすことで弄んでいるのだ。
「どうしたどうした、もっと頑張れ」
などと、余裕で言い。源龍はいよいよ頭に血が上り、やたらめったらぶんぶんと得物を振るうばかり。技術を用いず感覚と反射神経だけで動いているが。そんな素人に戻ったようなことでは、得物はかすりもしなかった。そしてそれを意識する余裕すらなくしてしまっていた。
「源龍、落ち着いて」
香澄がそばに寄り、声を掛けるが、聞こえてない風である。やむなく源龍とは別に、打龍鞭を避ける劉賢の動きを読んで、その先を読んだ行動をとる。
だがそれでも、ひらりひらりとかわされてしまい。かすり傷ひとつ負わせられない。先に指を切り落としたのは、劉賢の油断からだったが。今度は余裕を見せながらも油断をしていなかった。
屋敷周辺は気が付けば悲鳴がやまっていた。ということは……。
公孫真らは首を横に振った。もうどうすればよいのか。ことに貴志は気が触れてしまったのか、死人の傷口からしたたる血を筆につけて。その姿もいたましく見ていられなかった。
「ああ、貴志オッパは優しすぎる人、そのために気が触れてしまわれた」
と麗は目を背けた。瞬志も見ていられぬと目をそらす。しかし、家来や召使の鬼たちは。
「貴志おぼっちゃま、貴志おぼっちゃま」
と、何を思ったのか貴志の名をつぶやく。自分のなきがらを弄んでいるのかと狼狽する風でもない。が、流れる涙の量は増えて。頬を伝って落ちる涙は風に流されて、散って消える。
しかし。
「おおお。――」
天下の筆先が血に染まるにつれて、慟哭の声の響きも大きくなってゆく。一同の耳に強烈に触れる。
見よ、鬼の溢れ流す涙はまるで己がなきがらの流す血のように赤くなってゆくではないか。
「なにごとだ。面白き余興を見せてくれるのか」
源龍と香澄をからかって遊んでいた劉賢は宙に浮かび、相手の得物が届かないところまで上がって。余裕綽々で様子を見下ろす。
ふと源龍と香澄も貴志に目を向ける。鬼の様子が変わったことにも気付いた。
「血腥魂哭……」
劉開華はぽそっとつぶやいた。