血腥魂哭
が、しかし。
「たわけがッ!」
突然、空が爆ぜるような爆音を立て、火山の噴火のような爆発が起こり。三人はたまらず吹き飛ばされて、今度はそれらが背中を打って落ち。
「くそ」
源龍は呻きながら起き上がり。香澄も無言ながら起き、貴志も「いてて」とつぶやきつつ起き上がる。
三つの火の玉は主のそばに来て、それを守るように周辺を飛び交う。この火の玉を呼び、一瞬火力を強め爆発させて迫る三人を吹っ飛ばしたのだった。
「おのれ、この私を散々侮辱しおって」
ふとい血管の浮かぶ禍々しい顔の、青い血管が走る顔の、血走った目で、三人に憎悪のまなざしを向ける。
「くそ、なんてつええんだ」
「あと少しだったのに」
源龍と貴志は劉賢の思いの他の強さに辟易する。香澄は弱音を吐かぬが、同じ様子だった。それでも目は澄んで、なにか達観しているようだった。
屋敷には幸い鬼は迫らぬ。おかげで傍観している者たちも、今のところは無事ではあったが。
劉賢は獣のように吠える。
「お前たちは私自ら殺してやる。いや、極限までいたぶりつくし、息の音が止まる寸前のところで野に放ち、犬狼などの獣の餌にしてやる。生きながらに食われ、獣の糞便になるのだ」
屋敷の外では、鬼が犬狼や虎のごとくに暴れ回り、人々を凶気の牙にかけていた。守備兵もいて必死の思いで戦うのだが、いかんせん普通の武器で滅することはできず。抵抗虚しくこれらも凶気の牙の餌食となった。
火の手も上がった。鬼が火をつけるということはないが、火を使用中に襲われてしまい。その火を抑える者がなくなって。燃え広がってゆくのであった。
皮肉にも空は快晴。太陽も眩しく。青い空を雲が心地よさそうに泳ぐ。地上の惨劇に対し、空はあまりにもむごいほどにのどかだった。
家来や召使の鬼たちは。
「おおお。――」
鬼ながら涙を流し、この有様をひたすらに嘆いた。
(なんとかならないのか)
「翼虎は、翼虎は! 翼虎よ、我らを助けたまえ!」
たまらず貴志は翼虎を求めて、空に向かって叫んだ。
「やめろ! もう翼虎なんざ当てにならねえ。こうなりゃ刺し違えてでもこいつを仕留めてやる!」
源龍は血気に逸り、打龍鞭を振るって駆け出す。援護と香澄も七星剣を握って続く。
しかし貴志は。
「……ッ!」
何を思ったか、ふところから筆・天下を取り出し。家来や召使に瞬志の手勢の武士のなきがらに駆け寄り。傷口からしたたる血を、筆先につけているではないか。
「なにをしているんだい?」
羅彩女はそれを見て、ぎょっとしてしまった。筆先になきがらから流れる血をつけるなんてと。