夢想引導
「まあ、せいぜい頑張るといいさ。でも」
「でも、なんだよ」
「最近世情も物騒だ。各地で反乱も起こっている。今は大京は平和だが、いつ戦乱に巻き込まれるか」
「うーん……」
辰の太祖が天下を平定して百年。戦乱の世は昔のことになったように思われていたが。
「歴史は繰り返すのか」
「あんまり言いたかないけど、宮中の腐敗も相当らしいぜ。使節団が悔しい思いをさせられたって話もよく聞くしな」
「繁栄の後には、腐敗堕落が必ず来て。その次に……」
貴志は首を横に振った。
「いやいや、僕は文学に専念したいんだ。この世は広い、大京がだめになっても、どこか小説を書けるところはあるだろう」
「だといいけどな」
しばらくあれこれと話しをしていたが、互いに頃合いを見計らってそれぞれの机に向かって。貴志は書いた小説の見直しを、仲間は勉学に励んだ。
(ああ、眠い)
自分の小説を読みながら、貴志の頭がふらふらし。さながら舟をこぐかのようだった。
(最近徹夜続きだったからなあ)
本来の勉学に、小説の執筆や、参考文献を読むことなど。夜を徹して己のなすべきことに打ち込んできたが、さすがに身体はごまかせない。
うとうとし、頭は前に垂れて。目は意思に反して閉じられようとする。それに懸命に抗うものの。
ついには、抗しかねて机に頭を乗せて、そのまま寝入ってしまった。
と、思いきや――。
「ここはどこだ?」
どれだけ眠っただろうか。ふと、目が覚めれば、辺り一面白い霧に覆われた白い世界にいるではないか。
「そうだ、僕は寝てしまった。これは夢だ」
冷静に判断して、起きようとするが。どんなに身体を動かしても、現実世界へ帰れそうになかった。
身体は動いているが、動いていない変な感じだった。
「どうなっているんだ?」
貴志はふらふらと、一面白い霧の世界をさまよう。方向感覚も狂い、どの方角へ向かっているのかもわからない。
わからないまま歩を進めれば、ごつん、と何かにぶつかってしまった。
「あいた」
なんだ、と一瞬飛びすさって目を凝らせば。霧の中、うっすらと大樹が威風も堂々とたたずんでいるのが見えた。
「ようこそ、世界樹へ」
そんな声が聞こえた。若い女性の声のようだった。
「だ、誰だ。誰かいるのか?」
「ここよ」
突然、眼前に少女の姿が現れて。貴志は口から心臓が飛び出るほどに驚いて、後ろに飛びすさりざまに尻もちをついてしまった。