血腥魂哭
その、水汲みをした召使いが、いまは鬼となって、いや鬼にさせられて、倒れる自分を心配そうに見つめていた。
なんとか体を起こそうとするが、動けない。どのようにすれば指一本でこのような様になるのか。
「将軍!」
部下たちが周囲を取り囲み、さらに劉開華も駆け寄り迫る悪い鬼を払う。倒れる瞬志に対し家来や召使の鬼たちは、
「おおお。――」
と声を出し嘆いた。
それを見てどうにかしようとするも、身体が動かず。瞬志は歯噛みするしかなかった。
その間にも源龍は打龍鞭を振るい、光燕世子を攻めるが。
「ふん、うるさい小蠅が」
と打龍鞭を避けながら面倒くさそうにつぶやくと、跳躍し。源龍の頭上を飛び越え。距離を開けて着地した。
源龍とて黙って見送ったわけではない。素早い反応を見せ、着地点を見計らい、駆けたものの。跳躍してからの飛行速度も速く、また遠くへ飛び、さしもの源龍の打龍鞭も届かないところに着地し。
「くそ」
忌々しく舌打ちし、得物を構えなおし源龍はあらためて光燕世子と対峙する。
冷たくあしらわれた天君であったが、それでも慕う心消えずなのか、世子のそばに駆け寄り。その顔を見つめる。他の者たちも一緒にそばに駆け寄る。
「すごい、これはすごい。力が漲る、漲るぞ」
その顔は恍惚とし、酔ったようにつぶやく。だがしかし。
「力が、力、ちか、ち、ちち、ち……」
段々と言葉が正確に発音できず、ろれつが回らなくなってくる。それを見る天君も、にわかに不安が胸中を覆う。
「世子さま?」
顔を覗きこみ、様子をうかがうも、反応はない。何度か世子さまと呼びかけるが。ぎょろりと炎に包まれたままの姿で天君を睨み付け。鼻息も荒く吐き出せば、青白い炎が鼻息とともに鼻の穴から噴出される。
「ん?」
公孫真が変化に気付く。鬼どもが襲い掛からなくなって、腑抜けたようにふわふわ宙に浮かんで漂うばかり。何があったのだろうか。
一同この成り行き上の小康状態の間に構えを直し。様子をうかがい。不気味な静寂が周囲を包む。
そんな中で、李家の家来や召使いの鬼たちは。
「チョシメ、チョシメ……」
とつぶやいている。
貴志はそれを聞いて、
「小心……。気を付けて、って言ってるよ」
と辰の面々に伝える。
「言われなくったって用心してるけど、その人たちが言うなら尚更だね」
羅彩女はつぶやき、家来や召使の鬼を見つめる。呆けた表情ながら、鬼になってもなお貴志や瞬志を慕い、用心を呼びかけるなど。どれほどの念の強さであろうか。感心せずにはいられなかった。