血腥魂哭
「ほざけ!」
瞬志が剣を閃かせて世子向かって突進し。
「馬鹿野郎!」
と源龍も一緒に駆けた。
その前に天君と信徒らが立ちはだかろうとするが。
「かまわぬ」
そう言われて、道を開けた。その間を瞬志が剣を突き出し、さきほどの劉開華同様に刺突を繰り出す。そのすぐ後ろに源龍。
「ふん」
青白い炎の人形となった世子は、右手の人差し指を出し。なんと剣の切っ先をその人差し指で止めたではないか。
「な、なんだと!」
これには瞬志も驚き。しかしそれで隙を作ってしまい、今度はその人差し指が目前まで、眉間に迫り。咄嗟に避けたが左肩に当たり。弾き飛ばされてしまった。
蹴られた路傍の石のように吹っ飛んだ瞬志は背中から落ちて。
「うおお」
と呻き声を上げるだけで、身動きままならぬ。それを見た母の星連はついに失神してしまった。
天君や信徒、世子の手勢らは「さすが我らの世子さま」と歓声をあげる。
直後に源龍が打龍鞭を振るって、世子にぶち当てようとするが。それも、舞いを舞うように軽やかな足取りでかわしてゆき。かすりもしない。
「瞬志さま、瞬志さま」
気が付けば召使いや家来の鬼が自分のそばに寄り添い、心配そうに見つめる。
「お前たち……!」
ある思い出が脳裏によみがえる。瞬志も最初から真面目というわけでなく、少年時代は意地の悪いところもあった。召使いをいじめて泣かすこともあった。井戸から水を汲んだ召使いの桶を取り上げて、水をぶちまけたこともあった。
それを知った太定と星連は瞬志を呼びつけ。
「非道に落ちたか。この、大馬鹿者!」
厳しく叱責した。
これを受けて深く反省するとともに、自分が泣かせた召使いの泣く姿を思い浮かべて。
「オレはなんという、ひどいことをしてしまったのだろう」
と胸を痛めた。
以後、召使いや家来に意地悪をせず。慈悲をもって接するようになった。召使いが重いものを持っているとき、代わりに持ってやることもあった。
召使いは慌てて丁重に断るが。
「かまわないよ」
と、言って荷物を代わりに持つ瞬志に涙しながら、
「立派になられました」
と感心しきりだった。
瞬志もその期待に応えようと長じて宮仕えにも励み、水軍の将軍の地位も得た。
他の弟も真面目に務めを果たし、それなりの地位を得て、各所に派遣された。貴志もそれを期待されて辰に留学したのであったが。どういうわけか、文学に目覚め……。
ともあれ、家来や召使との生活は人生の一部で切っても切れないものであり、良好な関係は続き。互いに笑いあえると信じて疑わなかった。
それが……。