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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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血腥魂哭

「公主、かたじけない!」

「かまいません。困ったときはお互い様です」

 羅彩女も身のこなしも軽く、木剣を振るい、鬼を打ち。打たれた鬼は、ぶくぶくと泡を立て、弾けて、風に流されるように消えてゆく。

 屋敷はどうなっているだろうか。朱家の親子と母が気がかりで、貴志は屋敷の方を向けば。鬼は壁もなきかの如く透き通ってゆく。これでは屋内にいたとて意味をなさない。

 が、朱家の親子と、それに支えられた母が屋敷を飛び出し、貴志の招きで円陣の中に飛び込む。

「これはどうなっているのか。この世の終わりか」

 朱家の親子と母は円陣の中で抱き合って、危機を嘆いた。嘆きながら子どもの姿を見て、

「君たち、怖くないの?」

 と思わず麗が問うてしまうほど、落ち着いている様子に驚きを禁じ得なかった。

「怖くないことないけど、この人たち強いからね」

「そう……」

 どの道自分たちは戦えない。ならば、貴志たちに託すしかなかった。麗は貴志の背中を見つめる。

(本の虫でお人好しで虫も殺せぬようなお人だと思っていたけれど)

 迫りくる鬼を拳や脚で振り払う雄姿に、麗は思わず胸が熱くなった。

「本当は武術なんて大嫌いなんだけどな!」

 それなりに強さを見せながら、そんなことを言い。この危機にあって、少しばかりのおかしみを周囲に振りまいた。ということはなかった。

 貴志の目からは、こらえきれない涙が溢れて、頬を伝って流れ落ちていた。

 脳裏には、死んだ者たちと過ごしたときが思い起こされていた。

「この人たちが、なんの悪い事をしたって言うんだ!」

 瞬志も朱家親子に母の星連も同じように涙を流していた。

「むごい。まこと、むごい」

 星連は失神しそうなのを堪えて、手を合わせて死者の冥福を祈った。涙を流しながら。

 その涙に劉開華と羅彩女、公孫真は胸を締め付けられて、もらい泣きをしそうなのをかろうじてこらえていた。

 しかしそんなことは鬼たちには関係なかった。その涙を嘲笑うかのように、次から次へと迫りくる。

「……あッ!」

 思わず貴志と瞬志、星連が声をあげる。母と兄と弟のそばに、死んだ召使いと家来の鬼が近寄ってきたのだ。半透明で、生前の服装で、ふたりと同じように涙まで流しているではないか。

 これも払い、消さねばならぬのかと、どうしようもない思いがしたが。

「どうか、我らの仇をお討ちください」 

 と消え入るような声でささやき。襲ってくることはなかった。他の鬼も無視し、素通りする。

 危うく聞き漏らしてしまうようなか細い声だったが、それらの無念、痛いほどに伝わった。

「おお、お前たちの仇、なんとしても討ってやるぞ」

 瞬志は召使いと家来の鬼に向かって叫んで。視線を光燕世子と天君に向ける。

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