血腥魂哭
「鬼が出るなど。天君、お前何か呪術をしくじったのか」
「わたくしも何も知りませぬ! 我らとは別に何者かが仕組んだ事かと思われます」
怒りの矛先は橋渡しされるように宗教者である天君に向けられた。知らぬ、本当に知らぬと弁明するも、
「いいや、呪術をしくじったのであろう。こんなことのできる者は、お前以外に考えられぬ。それに……」
光燕世子は天君をぎょろりと睨んだ。
「お前が私の后だと!? ふざけるな。愛でてやったが、そこまでしてやるつもりはない!」
「そ、そんな。昨夜、事が成ったあかつきには、わたくしを后に迎えてくれると」
昨夜、しとねにて世子は天君にそう言った。しかし否定される。
「そんなことを言ったかどうかは酒も入っておったし覚えておらぬが、男のひとときの気まぐれを本気にするなど。賢いと思っていたが、存外そうでもなかったか」
「そんな……!」
なにやら天君は衝撃を受けたようだが、他の者たちに細かい事情がわかるわけもないし。わかるつもりもない。わかってやる義理もない。
「こんな時に仲間割れか、ざまねえな!」
鬼を打龍鞭で打ち払いながら源龍は光燕世子と天君をからかう。
他方、李家の屋敷に向かっていた雄王であったが。突然起こった騒乱に巻き込まれて、護衛兵囲む馬車の中で宰相の李太定とともに歯噛みし。
「退け! 退け!」
護衛兵がやむなく退くことを声高に伝え。馬車は反転して逃げ、幸い無事に王宮に引き返せたものの。それから入ってくる報告は悪いものばかりだった。
「光燕め。早まりおったか」
王宮に引き篭もり、天を仰いで我が子の非行を嘆くしかなかった。
ところは戻り、李家の屋敷。
信徒たちは逃げ、あるいは鬼の牙にかかって死に。それと入れ替わるように、鬼どもがあふれてくる。
公孫真は子どもたちと劉開華、羅彩女をかばって守っていたが。そこはそれなりの心得がある者だった。徐々に気を取り直して立ち上がり、香澄と貴志から木剣を受け取り。
鬼を消滅させゆく。
それを頭上から眺める怨念の鬼となった劉賢。
「ばらけるな、ひと塊になれ!」
実戦経験豊富な源龍が呼びかけ、一同は集まり。肩を並べて、それぞれ背中を向けあって円陣を組んで背中を守り合い。その中に子どもが入る。
瞬志も部下と同じように背中を向け合って円を描き、それを見た光燕世子と天君も同じように背中を合わせて、鬼を振り払う。しかし消滅させられるのは桃の木剣だけ。
劉開華は機転を利かし、瞬志とその部下たちに加勢し。鬼を消滅させる役割を担った。