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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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血腥魂哭

「巡り合わせとは面白いもの。路頭に迷う麗を見かねて面倒を見たのが、私の信徒とは。しばし面倒を見て人身御供を進言したのち、閃くものあって漢星に赴き、そこで世子に見初められて……。李家への奉公の口利きもしてくださいました」

 案の定、光燕世子と天君はできていたが。まさか奉公の口利きもしていたなど。太定も世子を警戒していたが、口利きを断ることはできなかったであろう。しかもそれが天君など夢にも思わなかっただろう。

 貴志が天君の言葉を翻訳し、源龍と羅彩女は忌々しく舌打ちし。公孫真と劉開華は眉をひそめた。

「これ以上言わなくてもよい。私とて恥じらいがある」

「ほほ、これは失礼いたしました」

 途端に、召使いや家来たちの叫び声や悲鳴が轟く。

「この屋敷は光燕世子さま率いる天頭山教が占拠した」

 天君は高らかに宣言する。

「うおお!」

 信者たちは刃を振るい、二階にも駆けあがって。護衛の武士も悲鳴を上げ、敢え無く仕留められて。それから立ち止まり、一同に刃を突きつける。

 信者たちも甲冑に身を固めた完全武装のいでたちだ。が、相手が手練れであることを察し、さしもの彼らも迂闊に踏み込めない。

「面白いことになってきたじゃないか」

 源龍は野生の獣のごとき興奮を覚え、不敵に笑う。それに光燕世子が応える。

「楽しんでもらえそうで何よりだ。私とて、この程度のことで君たちが怖じるなど思ってはいない」

「御託はいいんだよ!」

 再び床を蹴り駆けだそうとするのを、劉開華が打龍鞭を掴んで止める。

「なんで止めるんだよ!」

「ここは狭いわ。どうせなら、外でやりましょう」

「……、それもそうだな」

 このやり取りに光燕世子と天君は、何と間の抜けると苦笑し。それは貴志たちも同じだった。

(何か嫌な予感が、猛烈にする)

 劉開華は悪寒を禁じ得ない。夢の中で、兄が自分を呼ぶ叫びを聞いて飛び起きたのだから。

「よろしい。では外に出ようではないか」

 お互いに身構えながら、庭に出る。その間に、朱家夫妻は娘を支えながら光燕世子に許されて部屋に戻った。その時に、

「私の大事な側室だからな」

 と言われて、何度も言えぬ苦々しさを禁じ得なかった。

「しかし、世子は巡察に出ていると聞いておりますが。なぜここに」

「ああ、それか」

 貴志の疑問に世子は応える。

「あれは影武者だ。私は漢星に密かにとどまり、様子を見ていたのだ。随分と嫌われているものだな。もっとも、市井にも美女が多く、楽しませてももらったよ」

 巡察の旅に出たふりをして密かに漢星にとどまりながらも、これはと思う女性をかどわかして、欲望を満たしていたと。恥じらいがあると言いながらさらりと言ってのける。

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