憤怒的鬼
さてはて、この夢の中で、一同はどうやって翼虎と出会うのか考えあぐねていた。しかし源龍などは、
「やめたやめた。性に合わねえ」
と、考えるのを放棄してしまった。
「何か悪いやつと戦うにしても、翼虎なしで、オレの打龍鞭で叩き潰してやるぜ」
などと意気込み。他の面々は苦笑したり微笑んだりした。という時。
「開華!」
という、禍々しく劉開華を呼ぶ声がする。
「お兄さま!」
かっ、と目を見開いて。同時に上半身を弾かれるように起こして。劉開華は目覚めた。
どきん、どきん、と胸の鼓動が早まるのを禁じ得なかった。
「どうなされました!?」
「お変わりありませぬか!?」
召使いの女性と護衛の武士らしき男の声が扉ごしに呼び掛ける。夢の中だけでなく、本当に叫んでしまったようだ。
「だ、大丈夫です」
「本当に大丈夫ですか。失礼ながら、お部屋に入らせてもらいます」
なんと、勝手に扉が開けられ、男がずかずかと部屋に入ってくる。声の主は護衛かと思われたが、違う。豪奢な黒い衣装に身を包んだ、貴族風情の男だった。召使いの女性はおろおろ、してはおらず、同じように堂々としていたのにも驚かされる。
その男の目つきは異様に鋭く、まるで視線で射貫くかのように劉開華を見据えている。この男は何者であろうか。
「無礼者ッ!」
襟が整っているのを確認し、咄嗟に立ち上がり男に一喝をくれる。だが男は軽く受け流すように不敵な笑みを浮かべ、軽い動作で跪く。
髪の艶もよく、顔貌も端正、美男子といってもよい顔立ちだが。その目つきから、心根は顔と同じでないのを思わせた。
「何事でございますか!」
公孫真が飛んでくる。同時に羅彩女と香澄も続いて飛んできて、朱家親子もやってくる。
男の顔を見て、朱家親子の顔がどんどん青ざめてくる。
「あ、あなたは……!」
「久しぶりだな、麗」
男は跪きながら顔を後ろに向け、朱家親子、特に麗に強い視線を向けた。
「これは、光燕世子!」
伝道と成花が咄嗟に跪く。麗は腰を抜かし、崩れ落ちる。そう、この男こそ、王位継承権を持つ世子、光燕世子であった。
「あなたが、世子ですか」
「はい。父のあとにこの暁星の王となる者でございます」
跪くのも形の上だけで、その目つきを見れば相手を公主として慕っていないのがわかる。なるほど、噂にたがわぬ者のようだ。
しかし、光燕世子は巡察のため他の地域にいると聞いたが。なぜ漢星にいたのか。
「世子がおられるとな」
老齢の婦人が侍女に支えられてやってきて、その顔を見て、
「これは、世子」
と、慌てて跪く。
憤怒的鬼 終わり