夢想引導
時は辰帝国の治世。元号は晴紅十五年。
広き世界の、東方の華世界の大帝国として、辰帝国は覇を唱え。太祖の建国より百年をかぞえようとしていた。
西方及び北方の騎馬民族、華世界の東の半島を治める国・暁星や南方の小国等々、周辺諸国は自治を認められていたが、その代わりに臣従を誓い毎年朝貢の使節を送った。
東の半島、暁星から辰の都・大京に朝貢の使節団が到来した。
大京は方角にして辰の北東沿岸に位置し、暁星からも近く。多くの若者が大京に留学していた。
秋の涼やかなある日の、晴れの日。祖国からの使節団が大京に来たということで、多くの留学生が寮の部屋を飛び出し使節団を出迎えた。
大京は辰の都である。大都市である。高い城壁は永遠に伸びるかと思わせるほどに距離があり、それが五角形の形で都市を取り囲んでいる。
都市は賑わいを見せ、人口は百万と称された。
五階建ての塔など、背の高い建物も軒を連ねているが。都で一番人目を引くのは、やはり王城であろう。
王都の中心に、さらに王城があり。深い堀、高い城壁に囲まれて。豪壮な建築物が威風も堂々とたたずんでいる。
暁星からの使節団は通行証を門番に見せて大京入りし、大通りを通ってさらに王城に向かっていた。
「おお、チマチョゴリ姿の女官も懐かしい」
暁星は辰の文化を取り入れ、その服装も似通っているが。女性はチマチョゴリというみぞおちのところで帯を巻く独自の服装が目を引いた。
若き留学生ともなれば、なおさらであろう。
護衛の将軍が、
「これ以上近寄るな!」
と睨みを利かせて、留学生を威嚇する。
一国の使節団ともなれば、やはりそれなりに豪奢であった。人数にして一千くらいだろうか。使節団ゆえに老若男女入り交じり、護衛兵の甲冑や官人・女官の官服も贅を凝らし、きらびやかなことこの上ない。
太陽も使節団の無事到着をことほぐように、陽光を降り注ぐ。
留学生以外にも、野次馬が豪奢なたたずまいの使節団を物珍しそうに眺めてゆく。それを護衛の武士たちが追い払って道を開けさせる。
「オレもいずれ、出世してあの使節団の一員になるんだ」
留学生たちは使節団を見つめ、口々に夢を語った。
やがて暁星の使節団は王城入りし。外からはどんなことがおこなわれているのかは、想像するしかなかった。
暁星の使節団を出迎えた留学生たちは寮に戻り、将来の夢を改めて抱いて、勉学に励むのであった。
が、ひとり、そ知らぬ風にして読書にふけっている者がいた。
使節団の出迎えにもいかず、である。ずっと自分の部屋で、何かの本を読みふけるばかり。
「おい、貴志。相変わらずのやる気のなさだな」
「ん?」
「我が道をゆくの李貴志だもんなあ」