05.電話ボックスで転送
荷物には書類などの他にペラい紙切れとテレホンカードが入っていた。紙切れには所定の場所と若干意味不明な手順が書いており、これを行うとF.I.S.S ウルカヌスというあのUFO…いや、戦闘艦に連絡がつく段取りになっている。彼らは完全に俺を待っている。
ゴールディ少尉は印鑑を家から取ってきてほしいとお願いしてきていた。また、俺にはまだにわかには信じがたいが、時間経過はしないので問題は起こらない。しかし、心配なら貴重品を持参するようにとも俺に指示していた。日用品は仕事中に簡単に手に入る(言い方が妙だが)ので必要ないとも。
なのでかばんに通帳と印鑑、それと細々としたなくしたら困るものを詰め、それとゴールディ少尉からもらった紙袋をまるごと持ってペラい紙切れに書かれた場所に俺は向かった。
指定の場所は道路は走っているものの周りには森や田畑しかないへんぴな場所だが、そこには真新しい電話ボックスがあった。なるほど、紙切れの手順の意味はわかった。電話ボックスの電灯は明るく、入ってみると公衆電話も動作もしているようで、ランプが灯っている。
俺は公衆電話から受話器を取ってテレホンカードを差し込む。テレホンカードは公衆電話に吸い込まれ受話器からはツーという音が聞こえる。次の指示には3桁の番号が書いてある。これを打てば良いのだが、普通3桁の番号は電話屋のサービスに繋がる。
若干躊躇したがその番号を打ってみた。すると受話器から呼び出し音が聞こえ、誰かが出た。
「レベッカ少尉よ。どうぞ」
レベッカ少尉の声が受話器越しに聞こえてきた。俺は安堵して答えた。
「高田だ。よろしく頼む」
「了解。じゃあ、受話器をおいてそこで待機していて」
レベッカ少尉の言うとおりにする。テレホンカードが出てきたので反射的に取った。すると、俺はあの曲がり角で体験したのと同じように光に包まれ、次の瞬間には戦闘艦を出る時に見た場所に移動していた。さすがにもう驚かなくていいだろ。
移動した先にはゴールディ少尉が待っていた。彼は俺が来るのを楽しみにしていたような素振りを見せる。彼は言う。
「よく戻ってきました。お待ちしていましたよ」
彼らは寝ないのだろうか、それは別に聞かなくていいか。
「では作戦室に」
ゴールディ少尉に促されて俺は歩みを進めた。
作戦室にはレベッカ少尉が待っていた。ゴールディ少尉と俺は昨日と同じように座り、ゴールディ少尉が次の話を切り出した。
「昨日渡した資料類には目を通されたかと思いますが。高田さん、あなたゲームはやりますか?」
俺は若干ぎょっとした。だがゴールディ少尉も俺のプロフィールを知っているだろうし、なんなら俺のいた所の世相も調べているだろう。俺は小さい頃、大人はテレビゲームをしないもの、そう刷り込まれていたんだ。だが、俺は大学を出て一人暮らしを始めるとゲーム機を買い、気がつくと何本もソフトを買っていた。それくらい好きである。まあ、隠す必要はあるまい。
「ああ、やるとも」
こう答える他なかろうよ。レベッカ少尉がニヤニヤ笑いながら差し込んでくる。
「そう構えなくてもいいわよ。あなたの世界でもそのうち老若男女が夢中になるようになるんだから」
そうなのか。老人がゲームをやるのか。そう考えているとゴールディ少尉が続ける。
「であるのであれば理解は早いでしょう。『発明王』はとある世界で人気を博したPC用ゲームでした」
俺は基本的な質問をする。
「PCてなパーソナルコンピューターのことか?」
「あなたのいたところでも売っているパーソナルコンピュータのことです」
大学時代、研究室にあったあれがPCかな…そういえば、ゲームのためにバイトをして金をためて買ったとかいう友人がいたな。現物をあまり見てないのでわからん。
「ここから先、あなたにはまたも初めて聞く単語ばかりになって申し訳ない。発明王はロングセラーとなり、様々なプラットフォームに移植され、様々な要素が継ぎ足されました。家庭用ゲーム機、ガラケーアプリ、スマホアプリ、ボードゲーム、いわゆるソシャゲ、MMORPG、VRMMOなどに姿を変え、アドベンチャー、RPG、TPS、クラフティング、テイミング、魔法、呪術、錬金術、未来技術、都市開発、果ては物理化学シミュレーションなどの追加実装がなされたのです」
ゴールディ少尉は謝りながら解説をするが、彼の解説好きを止める理由はない。わからないところは教えてくれるしな。このゲームは面白そうだが、そろそろ本題に入ってほしいものだ。
「―それで、我々はこの大規模没入型バージョンのゲームの開発ライセンスを一部購入し、ゲームのMODとして思考エネルギー抽出システムを我々が開発したものを追加して、運用しているというわけです」
ははあ、長い解説の意味が何となくわかったぞ。そして紙袋にゲームのスタートアップガイドが入っていた意味もだ。ここいらで俺は質問タイムを取らせてもらった。
「俺にもなんとか掴めてきた。つまり俺はこの発明王ってゲームをやると、そういう解説なんだな?」
「そのとおりです」
「いまシステムの解説を俺にしている理由は?」
「先日の解説では不十分かと思いましたので」
「そちらのバックアップは?」
「私とレベッカ少尉がつきます。24時間いつでもサポートできる」
「なるほど、では――」
ゴールディ少尉の熱意におされたのかもしれない。俺達は数十分ほど白熱した議論をおこなった。