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41.帰還

 来たときと膨らみは殆ど変わらず、重量感もないのにも関わらず多量の物品が入っているバッグとリュックサック。イリシアとセフィアがそれを担いでいる。


 俺達がビゲストシティの小屋に戻った頃にはとっぷりと日が暮れていた。


「とりあえず換金アイテムの処理は明日に回そう」

ヘンミの提案に俺達は同意する。


 ドラゴンの体液をかぶった俺とヘンミは井戸で水をかぶってブルードラゴンの体液を流した。汚れはしつこいわけでもなくスルッと流れる。乾くのもあっという間だ。


「それはゲーム的な省略ね。ブルードラゴンの体液の効果じゃないわ」

レシーバー越しにレベッカ少尉が解説してくれる。確かに、そこまでリアルにされても困るよな。




 俺達はとりあえず腹ごしらえと俺のダンジョン初踏破を祝って酒場で一杯やることにした。


「乾杯!」


 艦内のバーとは違って、いかにも西洋ファンタジー風の木製の容器で料理が運ばれてくる。ビールジョッキはガラス製だが。


「紆余曲折あったが、このような作業を繰り返すことになる。ゆくゆくは発明班とダンジョン攻略班に分けたいところだが」

ヘンミは肉と野菜を炒めたものを食べている。豚肉だろうか。


 豆をフォークで突き刺しながら食べているのはセフィアだ。

「問題になるのは人数ね。マサルには加入してもらえたけど、私達はやっぱり道を間違えちゃったのかな、話を聞いてくれる人もかなり少ないのよねえ」

ヘンミはフン、と鼻息を漏らしたが何も言わなかった。


 代わりにイリシアがゆっくりと口を開く。

「NPC雇うのはだめなの?」

「駄目じゃないけど、使えるNPCを見つけてくるのが骨ね。お手軽な方法もなくはないけど」

「ああ、あれねえ。お金がいくらあってもだめなやつ」


 まあ当然俺は聞くわな。

「あれ、というのは?」


 いつもはレベッカ少尉が解説してくれるんだがセフィアに俺は聞いた。同時に喋ったりしなければいいが……レベッカ少尉は黙っている。セフィアが解説する。

「あなたのいたところにはガチャポンっていうのはあった?」

「ああ、小さい頃お金もらってよく回してたな」

「略してガチャ。でそれで発明するノンプレイヤーキャラクターを引けるクジで発明家ガチャっていうのがあるのよ」


 いつぞやの、テソみたいなのをくじ引きみたいに引けるわけか。


「そいつらをひけば発明できるのか?」

「いいえ?航空機に適正のある人物が引けることなんてまずないし、当たり外れも大きい」


「自分たちでも発明できるゲームだからな、これは。金が余れば余興にやる程度だ」

ヘンミが付け足す。


イリシアがビールでないオレンジ色の飲み物をちびちび飲みながら俺に言う。

「うん、ガチャを引いてそこから実体化させると一日ごとに維持にお金を取られるし、命令を聞いてくれるかどうかも、その人物によるの」

「それでも、私達がやるよりは工学的には能力が高いことが多いのよ」

セフィアが言葉を継ぐ。


 なるほど、悩ましい要素なわけだ。レシーバーからレベッカ少尉の声が聞こえてくる。

「まあ実際そのとおり。彼女たちの言うようにガチャで使える人物が出る確率はものすごく渋~くしてあるわ。だから、本当にお金が余らない限りやらないほうがいいんじゃない?」


「運がいい俺がやったら当たりを引く可能性があるかもな」

俺はでかいことを言ってみせる。他の三人は真剣な眼差しを同時に向けてくる。


「やらせてみるのも面白いけど、まだ準備が整わないわね」

セフィアから口を開いてヘンミとイリシアに視線を向け直す。

「ブートキャンプで戦闘能力の足りない部分を補わせるか?」

「魔法関係も何かしたいわねぇ」

彼らにとって俺は戦闘メンバーとしてはまだ足りない、そう言ってる。


 そう、まだダンジョンを一つ熟練者に連れ出してもらってクリアさせてもらったに過ぎないからな。俺はもう一つ疑問をぶつけてみた。


「戦闘能力以外に俺が身に着けたほうがいいこともあるんだろ?」

ヘンミが独占していた肉野菜炒めのおかわりの皿を給仕から貰いながら答える。

「すくなくとも工学関係の知識を持ってほしいな。あとはコンピューターやら何やら、少人数でやると何でも知っていないといけなくなる」


 俺は自慢じゃないが、とおいてこう言った。

「工学系の大学を出ている」

「あら本当に!?」

セフィアが目を輝かせている。こちらを罠にかけた時以上に。

「ああ、だから基礎的なことはわかっているつもりなんだが……それでは駄目かな」

「いいえ十分すぎるくらいよ」

こちらのほうでは戦力に数えてくれたのだろうか、イリシアとセフィアはきゃいきゃい嬉しそうにしている。


 そこへヘンミが補足する。

「まあ、ゲーム側がそれを認める必要があるがな」


 俺は聞くしかないじゃないか。

「どういう意味だ?」

「スキルの一覧にあればこの会話そのものに意味がないが、そういった物があるか?」

「徒手空拳、肉体強化、危機察知、バレットタイム、ブレインコントロール、木工、これで全部だな。スキルとしてはないってことか?」

「いや、スキルとして存在する。一覧にないってことはゲーム中で学術的な行動を一定数行っていない、そういうことになる。魔法に比べれば簡単だが、修行が多少必要になるな」


 まあ、ゲームに入ってからは木を切り倒すかモンスターを倒すかくらいしかしてないからな。


 ヘンミがセフィアに聞く。

「お前の小屋はコンピューターがあってネットワークに繋がってるか?」

「いえ、残念ながらコンピューターすらないわね。私達もそんなに使えないから」

「となると、金をためながらコンピュータースキルを獲得する必要がある……イリシアがちょっと心配だな」


 急に話題になってイリシアが「私?」という表情をしている。ヘンミが続ける。

「単純にスキルの枠が取れない。こいつは魔法・魔術関連で何でもできるので考えなしに局面ごとに本来の力をゲーム中で使うとそれに対応したスキルがどんどん追加される、でこいつの能力の総量はこのゲームの総量を超えてしまうらしい」


 ヘンミはまだ続ける。

「まあそんな量のスキルを持てるのは全ゲームでもこのイリシアぐらいだろうがな。それでイリシアならではの悩みもある」

「それは?」

「工業的な研究スキルを鍛えられない。研究向けに鍛えると魔法攻撃系スキルの威力がかなり弱体化する」

「だんだんわかってきた」

「戦闘特化型なのはいいんだが少数精鋭でこれは痛手なんだ」


 セフィアがここで口を開く。

「私がそれをカバーするつもりだったんだけどね。スキル枠には余裕があるんだけど立ち回りに失敗してこうなってるってわけ」

俺は嫌味を言うより慰めてやるべきかなと思った。

「まあ、俺が加わったろ。地道にやっていこう」

「そうね」


 イリシア自身、わかっていない部分があるようだった。手綱はセフィアが握ってるんだろうな。俺達はその後も飲み食いを続け、小屋に戻った。




 翌朝、俺達はまずモンスターが落としたアイテムを店に持ち込んで現金化することになった。中には発明に使えるものもあるらしいが、現段階では必要ないので一緒に売却することにした。クワガタとカブトムシの外殻とか。


 ヘンミが俺に尋ねる。

「そういえば、装備を値切ることはできたか?」


 俺は別に隠すことでもないし、とこの間の事を話した。

「そうか。通常の会話でもそれだけ変わるんだな」


 どうやらそこまで詳しくは知らなかったらしい。俺は聞いてみる。

「売値も同様に交渉できるかな?」

「できるだろう。だが、NPCの店は基本的に限界まで買ってくれるものの個数の最大値が決まっていて大量には買ってくれない。中には大量に買ってくれる店もあるがその一方で値交渉に応じてくれるかどうか……それに交渉の時間も惜しい。この程度の量で値交渉する意味はあまりないな」


 たしかに、交渉には結構時間を掛けたし、条件に合う店を探すのにも苦労したしなあ。ヘンミは続ける。

「素材もそのままだとあまり値がつかないしな。まあ今回はそのまま売って回って得たルビーを貯蔵庫に貯めることになるだろう、そうだろう?セフィア」

「正直なところ、だだっ広い土地と建物の確保費用、研究費を貯めるにはもっと上級のダンジョンに潜り続けないといけないのよね。何もかもがまだ足りないのが正直なところ」


 結局アイテムを総額5万ルビーくらいに換金し、小屋の箱に注意深くしまった。俺はもっと強く、そしてゲームを知ることが必要であることを痛感した。

とりあえず書きたいところまでは書けました。ここからどう進むか、ご期待ください。

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