04.ATMの中から
気がつくと連れ去られたところと寸分たがわぬ場所に俺は立っていた。家までもう少しだ。右手には、軽いがそれなりの重量を主張してくる紙袋があった。まあ、ここまでされて夢だとは思わん。
連れ去られたときは夜であったが、今は早朝になっていた。UFOの中にいたときは気付かなかったが徹夜したということになるんだろうか。そう思うと流石に眠くなってきた。ひとまず、俺は自分のアパートに帰って布団を敷いた。紙袋を枕元に置き、そのままぐっすり寝た。
昼くらいだろうか、俺は目が覚めると枕元にある紙袋を確認すると、ああ、夢や幻覚か、というのをこれほどまでに打ち砕くのはこういうことだな、と改めて思った。昨晩の出来事はやはり実際にあったのだ。
ということはだ、昨日の艦長の言っていたことも実際に行われたわけだろうな。俺は、冷蔵庫の中身で適当に腹を満たすと、通帳をかばんに突っ込み、アパートを出た。
銀行でATMの順番待ちをしている俺はさぞ不審だったろうな、と思う。行内の銀行員や警備員の視線が痛かった。そりゃまあ、艦長の言っていることが本当ならば、着手金として1260万円もの大金が振り込まれているはずだ。不審になるのも無理も無いんじゃないか、そう思う。
俺の順番が来たので通帳記帳の操作を行い、通帳を差し込む。ほどなくして通帳が戻ってくる。ATMの前を離れて通帳を確認すると…たしかに1260万円とちょっと、振り込まれていた。ご丁寧にウルカヌス チャクシという備考欄も埋められていた。後のチャクシはつまるところ、着手金のことだろう。
俺は心臓の鼓動が速くなっているのを感じながら家に戻ると、今までのことを整理した。宇宙人?の奴らは俺に仕事を斡旋すると言う。条件は…正直の所よくわからん。奴らの有利になるようになっているとは思うが……。
俺は残り3780万円と仕事の内容を天秤にかけた。また、俺が着手金を持ち逃げした場合に奴らが出来うることを想像してみた。多分、今のこの世の中では奴らに対抗できうる手段はないだろうな。ゴールディ少尉が火の神の名前を冠したと言ったあのUFO…戦闘艦が本気を出して俺を追いかけてきたり殺しに来たりしたらどうなる?
仮に戦闘艦というのが嘘でも、奴らは俺を深海の奥底や大気圏外に放り出すことは少なくとも確実にできるのではないだろうか。
『Invention King -発明王- 日本語版 スタートアップガイド』と表紙に書かれた小冊子や契約書の写しを読み込みながら、俺は決断を遅らせていた。だが、これは受けるしかないだろうな。総額5040万円もくれるっていうんだ。少なくとも現場作業じゃそんなには稼げない。
俺はこの仕事を受けることにした。