39.いざ、初ダンジョンへ(B3F)
前回、鬼が出るか蛇が出るか。そう言ったよな。
出たんだよ。頭が蛇の鬼が。金棒を担いでさ。金棒をどうにかしようとすると頭が噛み付こうとしてくるし、頭をどうにかしようとすると金棒を振りかざしてくる。
人間っぽくないやつと殴り合いはしたくないもんだ。でもこれからも出てくるんだろうなあ。
俺とヘンミが前に出て蛇頭の鬼を対処する、がその間にイリシアとセフィアの方には吸血コウモリやらネズミやら敵対的な小動物の群れが向かっていっていた。前衛と後衛を完全に分断されてしまった形だ。
「ローカライズ上の話、要するに海外版を出すにあたってこういうモンスターは言語ごとに異なる名前を持っています。このモンスターは日本語版では『蛇頭鬼』というかっこいい名前がついていますが、英語版では『Sneak head ogre』という若干芋臭い名前になっていますね。個人的には『Ja-Tou-ogre』でいいと思うんですけどね」
ゴールディ少尉のどうでもいい解説は無視するか若干悩む。とりあえず俺は対処法を聞いてみた。
「人間と一緒ですよ。頭か胴体に致命傷を与えれば済みます」
こいつは今までのこともあり、わざと役に立たない事を言っているのかもしれない。スキルをフル活用すればいいんだが、1~2匹それで倒したとしてもまだまだ大群が押し寄せてくるんだ。どうすればいいか。
元の日本で集団に絡まれたときは一人ずつ行動にするのではなく、どうしていたか。うーん、どうしていたんだろう。あまり記憶にない。
大したことのないやつばかりだったからパンチ一発で悶絶してたからかなあ、ここまで粘られたことがなかったんだろうか。なんだろう。
「高田さん、首を掴んで胴体を破壊するんだ!!」
ナイスアドバイスだ、ヘンミ。そうか、蛇の頭はつかめばいいか。子供の頃に蛇捕まえて遊んだなあ。そういうことはなぜか細かく覚えてる。
早速やりあっている蛇頭鬼の首根っこを掴み、徒手空拳スキルによる鉄拳を打ち込む。あんなに苦戦していた蛇頭鬼はあっさり事切れた。簡単じゃねえか。
後ろが気になってくる。山を吹き飛ばすイリシアが吸血コウモリに遅れを取るとは思えないがセフィアはそこまで強くない。
「後ろの連中!大丈夫か!!そっち行ったほうがいいか?!」
「へいきよ~~~」
気の抜けた声が聞こえてくる。そういえば放電音や何かが燃える匂いがこちらまで伝わってくる。ああ、このくらいどうってことないわけか。つまり、俺は前衛の訓練を彼らから受けてる形になる。今の俺の成績は芳しくない。
奇襲のつもりで俺の死角から襲いかかる蛇頭鬼の金棒をパーリングで弾き、そのまま頭を殴りつけて倒したり、逆側から来る蛇頭鬼が攻撃する前に腹に蹴りを入れて内臓破裂させるまでにはなった。
だが、流石に小動物までは構っていられない、ネズミを潰したりすることも結構難しい。
「ヘンミ、ちっこいのはどうすればいいんだ!」
「スキルを使うのが最適解だ、ちょっと見てろ」
俺は目の端でヘンミが目にも止まらない勢いで忍者刀を鞘に収めてまた出すと、忍者刀からブーメランのような何かが複数、吸血コウモリやネズミ、その他の小さい毒蜘蛛などの敵対生物を片っ端からサイコロ状に切り刻んでいったのを見た。
「似たようなことならあなたにもできるわよーぅ?」
レシーバーからは甘ったるさを隠しきれない声が、小さくしたウィンドウごしでもにやけ顔がわかる。レベッカ少尉。
「私達が厳選して少ないスキルしかあなたに付与していないのはいくつか理由はあるけど、かいつまんで言うわね」
「助かる」
吸血コウモリを掴み、ボールの要領で筋力強化スキルのパワーを蛇頭鬼の頭にぶつけた。そのまま吸血コウモリは蛇頭鬼の頭部を突き抜け、膝をついた後に前に倒れた。
「要するに、専用の機械を使うか、工具を組み合わせるかってことよ」
「なんだって?」
たしかに、この状況に慣れてきたのか小さい連中をせき止められるようになってきた。無論あの金棒担いだ鬼も倒しながらだ。説明も聞きながらな。
「ヘンミは専用の機械、つまり『カマイタチ』という刀剣類用のスキルを使ったけど、あなたのスキルの組み合わせならカマイタチを習得する必要なく前衛をもう全うできるのよ。わかる?」
「わからん!一度に複数のことを考えたり判断しなきゃならん状況が続くのは俺の頭に余る!もっと簡単に表現してくれ!!」
「いえいえ、現に私と話しながら戦ってるじゃない。普段でも私達と打ち合わせながらヘンミやイリシア、そしてセフィアと会話を楽しめているでしょう?」
俺とヘンミの間を8本ほどの天井まで届く火柱が後方から伸びてきた。ものすごい速さで伸びて周辺の小動物は消し炭にし、蛇頭鬼もダメージを受けている。この行動はもっとちゃんとやらないと及第点から遠いぞ、というイリシアからのせっつきだと解釈できる。
なぜかって、彼女がちょっと力加減を変えれば蛇頭鬼も消し炭にできるからな。
「『カマイタチ』の伝承について日本人のあなたに説明するのは省こうかしらね。このゲームにおいてはスキルと通常の行動に違いはほぼないのよ。違いは、スキルポイントを使えばそのスキルを持っている人は誰でも同じ事象が起こせるけど、ゲームのスキルでなく能力として行使できるのであれば――」
俺はここまで聞いた時点でもう体で理解していることに気がついた。それをレベッカ少尉に言語化してもらって補強しているに過ぎない。
スキルをちょっと贅沢に使う。敵は大小含めかなりいるが、そう、問題は数だけだ。
まず相手の数と方向を見定める。そして次に一番近い敵、蛇頭鬼でもネズミでもいい、そこに向けて指をさす。最後にバレットタイムを発動し、限界以上の力で指を伸ばし、バレットタイムを自発的に解除する。これをトータル1秒以内に何度も繰り返す。
「――ああ、なんだ。わかってるじゃない。そう。同じことができるのよ。とあるスキルを別スキルで代替する、というのを許容しているの」
彼女には見えている。俺がバレットタイム時間中に押し出した空気が衝撃波となって敵の大軍を一度に、一斉に粉砕しているさまを。ヘンミの声が響いてくる。
「やっと『わかって』きたようだな!その調子だ!!」
この状態になってもなお、まだヘンミには勝てそうもないなあ。敵はまだやってくるが俺はもう冷静になることができた。俺は誰あてでもなしに言葉を発する。
「ありがとう、やっとわかった」
と。ウィンドウのレベッカ少尉はくねくねしている。




