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36.「買い物だ」

 アーケード内にはカウンタースタイルとドアから入っていくスタイルがほぼ半々といった割合で店がひしめいていた。俺はまずグローブと防具がほしいと思った。


「高田さんの装備を一通り揃えてもらうか。……店員とのやり取りはできるな?」

ヘンミは小馬鹿にしているわけではない。いままでの話を統合すると、どうやらこのゲームの一般的なチュートリアルと違うものを俺は体験してきたらしい。


「もちろん……値切ったりはできないが」

俺はうなずいて素直に答えた。ヘンミはずっと険しい表情だが、急に吹き出した。

「はは、値切るか。応対そのものはしてくれるだろう。やってみるといい」


 俺もつられて笑ってしまう。だがたしかに、元いたところでも買い物で値切るようなことはなかった。値段交渉か。


「NPCをふつうに話術で説得して値段を下げることもできるし、レアなスキルだけど仕入れ値を割っちゃうくらい値引きさせられるスキルも装備もあるわよ」

歩きがてら会話が途切れたタイミングでオペレーターのレベッカ少尉が解説する。

「なんでもできるのねえ」

同じくオペレーターの張少尉が割り込みで画面を出してくる。

「そ。なんでもできるのがVRMMOのウリなの」

レベッカ少尉はすまし顔でそう言った。


 俺はグローブの相場を見に行くと言ってチームメンバーの3人と別れた。三者三様、買うものが違うのだ。




 ナマモノや得体のしれないもの、こちらに切りつけてくる刃物や銃弾を直接手に触れたくない。しかしものを調べるのには指で触らないと…現代人ならたしかにそう思うだろう。なので指が出ているオープンフィンガーグローブという装備にまず、狙いを絞った。


「殴る時は直接触らず、調べる時は直接触る、合理的でしょ?」

ミステリアスな笑顔を久しぶりに浮かべたレベッカ少尉は、そう言ってクセのある髪の毛をいじった。たしかに、合理的なアドバイスである。やっと彼女も調子を取り戻せたかな。では、もっと役に立ってもらおう。


「レベッカ少尉。このグローブは見て回った限りだと値段はどこも200~300ルビーだったよな」

「そうね。250ルビーくらいが目に入れば買う、くらいでいいわね」

「300ルビーで売っていた店にひとつ150ルビーで売らせることはできるかな?」

「へー!そうくる?!」

こういう越権行為的な無茶を振ると喜んでやりたがる。こいつはそういうやつだとこの間学んだ。


「ここ担当GM多いけどどうにかできる?」

張少尉は事務的に、内心心配してか聞いてきた。

「最悪コレに物を言わせるわよ。GMがブーたれたら私が行くからって言ってみてね」

「わかったわ」

レベッカ少尉の『コレ』とは鉄拳のことだ。いやはや野蛮なことで。人のことは言えないか。


 その高いオープンフィンガーグローブを売っている店に行く前に、実験として他の店でどのくらい安くしてもらえるか値切ってみることにした。ここでは200ルビーで売っている。


 そこの店主の名は『強欲な店主グレゴリー』と言った。市場価格最安値なのに強欲と来たか。レベッカ少尉に聞く。

「NPCの名前には意味があるのか?」

「あるわ。頭の形容詞なんかが性格、次がノンプレイヤーキャラクターに割り当てられた仕事、最後がランダムに与えられる固定名」

「強欲なのかこいつは」

「そうね、強欲ね」


 俺はオープンフィンガーグローブをレジのグレゴリーのところに持っていき、こう聞いてみた。

「この装備、いくらか負けてくれないか?」

「断る。欲しければよそへ行くんだな」

「そう言わずに、頼む」


 俺は衛兵を呼ばれるリスクを秤にかけながら襟首を掴んでカウンター越しに持ち上げて頼んでみた。しかし、それでも

「何をされてもびた一文負からん。そういうことがしたければよそへ行け」

負けなかった。強欲というよりは強情だろう。俺は店主のグレゴリーを降ろし、拳を作りながら戦闘用スキルの準備をし、もう一度聞いてみた。


「負からないか?」

それでも。

「負からん」

そう答えられれば、もう店を後にするしかなかった。




「マサルってさ」

次の店への道中、レベッカ少尉が不意にオペレーターウィンドウを出して話しかけてきた。

「なんかこう、試してみるっていうか、実証主義者的なところあるわよね」


 彼女の問いかけはゲームの攻略上のアドバイスか、単なる雑談か。

「試してみるしかないだろう。君たちに聞くか、はたまたヘンミに聞くか、コンピューターを使えば、こんな真似はしなくてもいいだろうが」


 彼女は頬杖をついて頭をかしいで答える。

「最短を最初につかない、マサルのそういうところ好きよ。私もこのゲームをプレイし始めた時は一番遠いところからつっついて回ったもの」




 そうこう話しているうちに街中で最高値を付けている店についた。店主は『杜撰な店主ジェシー』という名前が出ている。彼女は暇そうに見える。


 そこでも俺は同じように

「負からないか?」

と聞くところからアプローチした。するとジェシーは

「あーはいはいいいわよー、いくらにしたいの?価格据え置きならもう一個付けるわよ」


 商売する気があるのか、仕入れ値がものすごく安いのか。300ルビーで2個手に入るとすると1個150ルビーという計算になる。これが実質最安値というわけか。予備もほしいので買おうと思うがその前に。


「これは最安値か?」

「スキルや装備でもっと下がるけど、普通に会話して交渉したらそんなものよ」

「そうか」

レベッカ少尉に確認した。なるほどここで買おう。


 さすがに他の装備は予備を買わなかったが、こんな調子でこの店で安くしてもらったので、一揃い整えた。

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