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03.ライト兄弟

 作戦室と呼ばれる部屋は奥行きが広く、中央には重厚なテーブルが置かれている。そして、椅子が6脚ずつ収められていた。壁には質素で大きな額縁が掛けられており、地球が映っていて、自転している様子がわかる。

 

 俺達は向かい合って座った。ゴールディ少尉が数ページの資料を全員に配る。俺はその資料に軽く目を通した。ゴールディ少尉が説明を始める。

 

「あなたに依頼したいことは『再発明』に関するとある1プロジェクトに対する統合的なマネジメントです。再発明とは『車輪の再発明』から来ています。この慣用句は通じますね?」

 

 要するにすでに誰かが考えたものをもう一回誰かが作ってしまう、そういうことだ。頷いておこう。ゴールディ少尉は続ける。

 

「我々は使役している人間等に意図的に再発明をさせることによって、それに至る思考エネルギーを抽出し、それを利用して我が艦を多目的に運用させます」

 

 俺はここで聞かなきゃならない疑問がある。

 

「思考エネルギーってのは具体的になんだ?どうやって抽出する?」

 

 ゴールディ少尉は説明をするのが好きなようだ。また、彼は若干言葉を選んで答えた。

 

「そうですね…脳のシナプスから流れる信号の組み合わせを扱いやすくしたもの、と捉えてください。気体を液体に戻すような処理を行います。また、その思考は純粋であれば純粋であるほどいい。」


 ゴールディ少尉は続ける。


「純度が高くなればあなたの報酬へのボーナスも乗せられるほど我々は純度の高い思考エネルギーを求めています。抽出方法は対象者の頭蓋の外からセンサー類を接続し、対象者を仮想現実空間で活動させることで行います」

 

 俺はなんとなーくはわかったが、こういうSFのウンチクは嫌いじゃないがあんまり得意でもない。質問を重ねてみる。

 

「純度を高くするにはどうすればいいんだ?」

 

 ゴールディ少尉が艦長のような気持ちの悪い笑顔を一瞬浮かべた気がした。気のせいか。そして彼は言う。

 

「簡単なことです。その発明者や作業者達がみずから発明したかのようにあなたがとりはからえばいい」

 

 わかったような、わからんような。俺はもう一つの疑問に対して質問を更にしてみる。

 

「仮想現実空間っていうのはなんだ?さっきからまるで初めて聞く単語ばかりだ」

 

「抽象的に言えば、高度なごっこ遊びをするんです。そのごっこ遊びはコンピュータが取りまとめるわけです。視覚を使った原始的なものはあなたのいたところでももうそろそろあるんじゃないかな」

 

 彼はそう答えてくれたが、いやよくわからん、どうすればいいんだ。ゴールディ少尉は俺の表情を見て内心を察したらしい。

 

「わかりやすい導入ミッションも用意してあります。それをこなせば直感で理解できるようになりますよ」


「だといいんだが」


 俺は答える。至れり尽くせりというわけだ。ゴールディ少尉は具体的な仕事内容の解説に移った。

 

 

 

「ライト兄弟は地球人類で初めて動力をもった固定翼機を飛行を成功させました」

 

 ゴールディ少尉の解説は続く。レベッカ少尉は室内の壁面を何か操作し、小声で壁面に話しかけ、喋ってちょっとすると人数分のお茶を持ってきてくれた。

 

「そのライト兄弟に似た素養を持つ人物を見出し飛行機を発明させる。そして継続して発明を発展させ続け、地上攻撃可能で高速なジェット機を作らせるのが、あなたに対する依頼の全容です」

 

 そういえば大学で流体力学の基礎を講義で軽くやってたなあ、と思い出していた。だが、飛行機を作れるほどは詳しくない。

 

 そして、お茶をいただいてみる。ほうじ茶のようだ。あたたかい。レベッカ少尉は仕事と関係なく俺を見てニコニコしているように見える。そんなに俺に惚れたか?と思うほどだ、それは彼女の仕事で、惚れたってことはないだろうが。

 

「おおよそは理解できた。ありがとう」

 

 レベッカ少尉の胸を見ないように努力し、ゴールディ少尉の目を見て俺は言った。

 

「いえいえ、こちらとしては無理やりやらせているようなものなので、申し訳ないくらいです」

 

 ゴールディ少尉は終始丁寧だ。そして、報酬額や条件をもう一度まとめて確認するとゴールディ少尉は小冊子と未署名の契約書の写しなどを入れた紙袋を俺に渡してきた。

 

「説明は以上です。ではまた移動しますので、こちらへ」

 

 俺達はまた違う部屋にやってきた。部屋の横の表示に英語でトラなんとかルームと書いてあったがよく読めなかった。

 

 部屋は巨大な装置でほぼ埋め尽くされており、少舞台のような円形の台が備えられている。背の高いテーブルのようなものに男性がついており、何か作業をしていた。ここになんと艦長がいた。

 

「見送らせていただこうと思ってね」

 

 もしや、艦長はこの気持ち悪い笑顔は崩せないのだろうか。

 

「それと、ささやかながら気持ちを贈らせてもらった。本来ならば契約締結後に振り込むべきだが、私の裁量で着手金を振り込んでおいたよ。夢ではないことを明日あたり確認していただきたい」

 

 驚くべきことに艦長は前金をもう渡したと言ってきた。本当なら太っ腹だな。

 

「台の上に立ってください。これからあなたを元の位置に戻します」

 

 ゴールディ少尉が俺に促す。俺は台の上の適当な位置に立った。

 

 艦長が命令を下す。

 

「オーエン少尉、転送開始」

 

 テーブルで作業していた男性が頷くと、俺は光に包まれた。

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