23.ハラスメント
ショートボブの女が叫んだと同時に俺は暗闇に吸い込まれた。
床はあるようだ。俺は落ちてきたわけではないらしい。俺は直立している。
暗闇に目が慣れてくると、上方にはまるで星空のような光が瞬いていた。幻想的な風景だ。
床は漆黒のようで灰色が混ざり、ざらざらしている。
周りを観察しているとどこからともなく、事務的な男性とも女性ともつかない声が聞こえてきた。
「あなたは他プレイヤーの異性アバターに対するハラスメント行為を働きました。利用規約26項3番に抵触したためあなたは18446744073709551615時間この場所に拘束されます。異議のある場合はこの場でGMコールを行ってください」
1000兆より大きい時間だということはわかった。このゲームは後ろからどつかれておっぱいにうっかり触ったら途方もない時間遊べなくなるものらしい。そんなわけあるか?
オペレーター達にコンタクトを取ってみる。が、返事がない。
GMコールの仕方もわからない。
前にゴールディ少尉がこの通信は基本阻害されないが例外もあると言っていたが、これがその例外なのだろうか。どうしたらいいものか。
そう思案していると聞き覚えのある声が響いてきた。
「ふっふっふ、あなたは罠にかかったわ。そこから出してほしければ手持ちの金の半分とアイテムの半分をよこしなさい」
さっきタックルしてきたショートボブの女の声だった。そして目の前に取引ウィンドウが浮かび上がる。相手の名前がグチャグチャの未知の文字で読めない。
どうやらここは透明な壁に囲われているようだ。フルパワーの徒手空拳スキルを試し、壁を連打したりしてはみた。何の反応もない。
蹴りは掴まれるのであまり使わないのだが、壁だし蹴ってみた。何の反応もなかった。
「何をしても無駄よぉ~」
あの女はこちらの状況が見えているらしい。
最後に透明な壁を一度殴った。だがやはり、壁は何の反応も示さない。
諦めて、言われた手持ちのアイテムの半分と金の半分をウィンドウの取引ウィンドウのアイテム欄に放り込んで『取引』ボタンを押した。
「ちょっとぉ、あんたこんな状況でケチろうっての?それともただの初心者?」
「さぁな」
「……本当にあなた、来たばかりなの」
相手の女はターゲットを掴み損ねたようなのか、自信が失せてきた口調になった。事実、俺はカモではないのだ。
そしてこのやり取りから声でやりとりもできることがわかった。さあ、どうする。
「俺はチュートリアルってやつをこなしたばかりなんだ。今何が起こってるのかもわからない。頼むから見逃してくれ」
俺は穏やかに頼んだ。
「…あなたから725ルビーぽっちと木材を奪ったところで薪くらいしか作れないわね。それに、街で見た時やけに軽装だった」
取引ウィンドウの上から新たなウィンドウが現れ『取引はキャンセルされました』と表示された。
「とっとと消えなさい」
それはこちらのセリフだ。そう俺は思った。