22.ビゲストシティ
それなりに書き溜められました。しばらくお付き合いいただければ幸いです。
ビゲストシティへの旅路はそれはそれは平和なものだった。
俺は吟遊詩人が歌を奏でる中、オペレーター達ととりとめのない話をしていたくらいだ。
旅路が終わりを迎える頃、急に馬車の速度が上がった。そして御者が大声で叫んだ。
「ドラゴンだ!!」
俺はこのゲームでは強い存在だから余裕だ。なぜ発明ゲームでファンタジックな要素があるのかな。というのを考えられるくらいな。
ドラゴンは複数いるようだ。御者はかなり慌てている。
それより俺がドラゴンに対処しないと、馬車を燃やされてビゲストシティに行けなくなるんじゃないかって不安が出てきている。
「道なりですから馬車を見捨てても問題ないですよ。もうすぐそこですし」
そうレシーバーから教えてくれるのはゴールディ少尉だ。レシーバーの設定を変えて呼び出しを省略して繋ぐようにしてもらったのですぐ話が聞けるようになった。
問題ないのはわかるが俺はそういう冷血漢じゃない。迎え撃ちたい。
通信を切り替えてレベッカ少尉に質問をする。
「あいつらは赤いし見るからに火を噴きそうだが、パーリングで跳ね返せるかな?」
「もちろんよ。上手く入ればその場で打ち消すこともできるように調整しておいたわ。バーンと殴って打ち返しちゃいなさい!」
もう1人のオペレーターのレベッカ少尉がその大きな胸を叩いて太鼓判を押す。
馬車の後ろ側のほろを全開にして空を見上げる。ドラゴンは4~5匹はいるようだ。
早速、一番前にいるドラゴンが火球を放ってきた!すごいスピードでこちらにめがけて飛んでくる。
馬車から5メートル位の距離で危機察知スキルが発動し、火球が馬車に当たる寸前でバレットタイムスキルが発動する。俺は思いっきり火球を弾く。
熱い!!火球なだけあって高温なんだろう。見りゃわかる。だが、肉体強化スキルのお陰で俺は大したダメージは受けていないようだ。
火球は明後日の方向に飛んで行った。
「ヒィイイ~~~~!」
そばにいた吟遊詩人が悲鳴を上げている。後ろのドラゴンも火球を放ってくる。
熱いのを我慢して火球を数回弾く。すると火球では通じないと思ったのか先頭のドラゴンは火炎放射をしてきた。俺には大したダメージはないが馬車が燃えてしまった。
「ぎゃああああああ!!」
吟遊詩人が火だるまになってしまった。火を消してやらねば。馬車内に敷いていたござのようなもので吟遊詩人を叩いて消火を試みる。
なかなか消えない。ドラゴンは火球の攻撃を再開してくる。吟遊詩人の火を消しながら火球をさばくのは困難だ。
馬車を優先するか、吟遊詩人を見捨てるか。万事休すか。
すると、天を裂くような轟音がした。雷のような光線が放射状にビゲストシティの方から放たれ、ドラゴンの強いであろう皮膚を貫く。
続いて、バーッという音が聞こえたかと思うと、遅れて手負いのドラゴンの胴体から血しぶきを上げ続けさせた。
ドラゴン達が墜落していく。ドラゴンがいなくなったことで俺は消火に専念でき、結果吟遊詩人の火も消せた。だが吟遊詩人の皮膚はただれ、息も絶え絶えだ。彼に俺ができることはもうないだろう。せめて声を掛けるくらいだ。
「大丈夫だ、傷は浅いぞ」
吟遊詩人は力なく笑った気がした。
しばらくすると、馬車の前方に石造りの城門が見えてきた。横にはどこまでも城壁が広がっていて、白い円柱が乗ったバルカン砲が城壁の上にあった。
「CIWSって言うんです。あなたのいたところでは艦船に積載して使っていたそうですね」
ゴールディ少尉が解説する。
「バルカン砲か?」
「ええその通り、バルカン砲です」
「そうか、バルカン砲か」
俺たちは楽しそうに言い合った。
その奥には金色で四角い砲身の大砲と言った趣のものがある。幾何学的な模様があしらわれている。
「その奥にあるのは魔術系の砲台ですね。術者を必要とせず、完全全自動で外部の脅威を排除します。その際に相手が魔物なら苦手な属性を選ぶように出来ています」
「ほー」
CIWSと魔術砲台は交互にどこまでも城壁の上に並んでいた。強さの象徴たるドラゴンを寄せ付けないこの街でなら、なるほど力のない者でも安心して発明に打ち込むことができるだろう。
骨組みだけになった馬車から城門を眺める。建築物としてかなり巨大であることがわかる。まるで背の高い何かを通すためかのようだ。
城門をくぐると兵士が手でどかす方式のゲートの前に立っていた。御者はけが人がいることを兵士に伝えていた。
ほどなくして、ローブを目深にかぶった老人が吟遊詩人を治療しにやって来た。老人はむにゃむにゃと呪文を唱えるとさっと手をかざし、あっという間に吟遊詩人のやけどを完治させた。
老人は吟遊詩人から感謝の言葉といくらかの謝礼を受け取って去っていった。
「死ぬかと思いましたよ」
そう言うと、吟遊詩人はさっきまでの状況を歌い始めた。新曲か。
出入り口そばの広場に馬車は停まった。馬車を見回して御者は言った。
「ハハハ、こりゃ赤字だわ。お前さんも災難だったな」
「アンタほどじゃないさ。世話になったな。ありがとう」
俺は答えて馬車を降りた。
広場には馬車から4トントラックから未来チックな空を飛びそうな乗り物までごちゃごちゃと駐車(駐機?)していた。
俺はその広場から伸びる一番大きな歩道を歩いていた。さしあたって目的、ないな。どこにいったものか。
そう思っていると歩道の横道から金髪の爆乳美人が俺の前に出てきた。目が赤いのと後ろに一本に三つ編みにしているのが印象的だ。乳の大きさはレベッカ少尉のほうが大きいな。と、見ていると。
「うおらあああああああああああああああ!」
女とみるやジロジロ眺めるのは本当にやめたほうがいいな。後ろからすごい力でタックルを食らってしまった。特に警戒してなかったのもあり、俺はバランスを崩す。
すると、目の前の爆乳美人に覆いかぶさり、押し倒して乳を掴む形になる。
「いやーん、えっちー、なんてことをするのー、わたしはふかくきずついたわー」
爆乳美人は棒読みで台本を読み上げるようにしゃべった。
そしてもうひとりの女。この華奢な女が俺を倒したのか――が大声で叫ぶ。
「GM!!ハラスメント行為を見たわ!!あいつが犯人よ!!!」
後ろを見ると、俺にタックルしたらしいショートボブの女が俺を指差す。ハラスメントってのはなんだ?