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21.さらばはじまりの街よ

 レベッカ少尉が四輪駆動車を馬泥棒に持ち去らせたのには理由があるらしい。


「ちゃんと理由を説明すべきだったわね。ここはまだ厳密にはVRMMOの世界ではないのよ。そこから出すのに手順があるの」


 レベッカ少尉は立ち直ったようだ。彼女は言葉を継ぐ。


「馬車の定期便がじきに来るわ。それで本番環境のVRMMOの世界に行ける」


「なんだって?」


 俺は驚いた。レベッカ少尉は説明を続ける。


「ここは正確にはマサルをゲーム世界に慣らすための場所なの。つまり、発明王のいわば砂場、チュートリアル用のサンドボックス環境っていうやつなのよ。だからここにはプレイヤーはあなた一人しかいないし、何が起こっても問題ないの」


「徒手空拳スキルで何を殴っても問題ないのか?」


 俺は地面を殴ったらどうなるのかを想像した。それこそ大地を割れるかな。


「ないわ。」


 レベッカ少尉は落ち着き払っている。からかってもいない。彼女は続ける。


「だけどこれからはちがうわ。MMOとはMassively Multiplayer Onlineの略。何万人ものプレイヤーがひしめいているし、私達以外のオペレーターやゲームマスターがそれぞれ目的を持ってゲームに介入しているわ」


「当然、その人達は目的のためになんでもする。ルールもある。だから、私達もあまりおおっぴらに変なことは出来ないのよ。おおっぴらにはね」


 レベッカ少尉はため息をついた。俺は気がつく。


「てことは、あの車はそもそもその本番環境ってやつでは使えなかったのか?」


 レベッカ少尉は軽く微笑む。


「サンドボックス環境でオペレーターによる任意アイテムの発生、っていうオペレーターコマンドを発行したからね。サンドボックス内の元からある正当なアイテムじゃないし、本番環境のアイテムとしても発生してないからシステムが拒否するわ。どのみち持っていけないのよ。」


「木工工具や木材は?」


 俺は疑問をぶつける。


「難しい話をするわよ?本番環境に移動する時、あなたのプレイヤーキャラクターのインベントリーリストがサンドボックス環境での正当な処理でのアイテム付与であるという証拠を本番環境に渡すの」


「本番環境はサンドボックス内でのマサルの行動をさかのぼって、店で買ったとか伐採したとかいうのを精査してゲームの行動として不正がないかどうかを確認するわけ」


「持ち物と履歴が一致すれば主張は認められ、そこではじめて本番環境に持ち込むことができる」


 俺は言う。


「所持金も同じ理屈だな?」


「そうよ。あなたは差し引き1450ルビー程度持っているけど、それはそのまま持ち込めるわ」


 レベッカ少尉は返す。ん、では俺のステータスやスキルはどうなんだ?聞いてみると彼女は


「艦長直々のお達しで、本番環境でもあなたはいつでもステータス調整し放題のゲーム内最強の超人よ」


 と言い切った。


「マジかよ…」


「ただし、あんまり目立つことをするとGM、つまりゲームマスターがあなたを隔離する可能性が高いわね」


 彼女は気になることを言った。俺は首をひねる。


「なんでだ?」


「あなたを保護するためね。あとは見せかけの公平感を崩さないためだったり、他のプレイヤーのミッションの進行を過大に阻害しないためだったりするけど」


 レベッカ少尉の説明はあまり要領を得ない。が、彼女は続ける。


「で、あなたがいくら最強と言っても半径10センチのミニチュア太陽をぶつける魔法を受けたら蒸発して死んでしまうし、特殊な弾頭を使った重機関砲で心臓をえぐられても死ぬ」


「そんなことをされなくても簡単なトラップで今のあなたはすぐ死ぬわ。死ぬことによるペナルティはあなたにはあまり関係ないけど、それでも目をつけられないためには普通のプレイヤーのように振る舞うべきよ」


「わかった」


 俺ははじまりの街で5回殺されたことを思い出しつつ了承した。




 しばらくして、2頭立ての馬車がやってきた。御者が俺に話しかけてくる。


「この馬車はビゲストシティに行くが、乗っていくかね?150ルビーでいいぞ」


 俺は150ルビー払って馬車に乗った。しばらくすると馬車が揺れ、走り始めた。


 馬車の入り口から街の出入り口の看板が見える。そこには『Welcome to the Invention King Massively Multiplayer Online Role Playing Game Edition!!!』つまり、『MMORPG版発明王へようこそ!!』と書かれていた。ここから本番ってわけだ。


 するとゴールディ少尉から着信がきた。


「あぶないあぶない。ほとんどのNPCは気にしないんですけど、他のプレイヤーはあなたが我々と喋っているとその声を聞いてしまいます」


 俺は聞いてみる。


「なんだって、どうすればいい?」


「未来技術の音声認識は凄いんですよ。ほぼ口を閉じて小声で喋っても、そこから本来の喋りを復元できます。ですからそのようにやってみてください」


 ゴールディ少尉がそう言うと、馬車の中に吟遊詩人が蜃気楼のように現れて曲を奏で始めた。


「これはどういうことだ?」


 俺は普通の声で尋ねてしまった。


「ウウウン!!」


 吟遊詩人が咳払いして睨みつける。ゴールディ少尉が言う。


「吟遊詩人が気にしないように私と会話を続けて」


 俺は言われたようになるべく口の中で話すように心がける。


「こう、これくらいならだいじょ」


「ウウン!!」


 今度は睨んではこないが、吟遊詩人は咳払いをする。


「ムムムモゴ、モムモムメメメマモ。モマモマメッムモムモゴゴ」


 完全に口を閉じて、鼻から小さく声を出す。吟遊詩人はこちらを気にせず曲を奏でている。


「ハハハ、そこまでやると逆にしゃべりにくいでしょう。ちなみにその話は長くなるのでまたの機会にしましょう」


 この状態からでも喋ってる内容がわかるのか。サルグツワさせてても尋問できるんじゃないかこれ。すごい。


 俺は口笛を吹くくらい、軽くくちびるを開けた。その状態で小声で喋る。


「では、このくらいならどうだ。吟遊詩人も気にしないか?」


 吟遊詩人は全く気にしている様子はない。ちょうど盛り上がる場面のようで高らかに歌い上げている。


「最高です!ちなみに我々は今までより限定はされはしますが、たとえば吟遊詩人のNPCを出したり入れたりするのは本番環境でも余裕でできます」


 ゴールディ少尉は嬉しそうだ。俺は怠惰な質問を聞く。


「それなら、発明品の資材をアンタたちに出してもらって俺達が組み立てるっていうのはどうだ?」


 ゴールディ少尉の声の調子がガクッと下がる。ウィンドウの彼は両手をやれやれと広げる。


「ゲームそのものが運営側、つまり私達の不正とみなす可能性があります。その場合依頼は失敗します」


 人生そんなに甘くなかった。馬車は順調にビゲストシティに向かっていっていた。

小プロットと書き溜めが尽きましたのでしばらく毎日更新はなくなります。

さあ!調査の時間だ!!

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