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20.依頼票

 2日分の活動費を捻出した俺は、テソを探しに石切り場に来ていた。


 テソは一休みしていた。俺は声をかける。


「金は用立てた。研究を続けよう。相談したいこともある」


「いいよ!続けよう」


 テソは待ちわびていたようだった。




 俺はテソに資材と金の使い方について指示を改めて出した。


「何か買うときは必ず俺に相談しろ。また、特に木材は店のものでなく俺に頼むように」


「わかったよ」


 テソは素直に聞く。




 そして、店で皮と、どうしても作りにくい軸となる棒を幾つか購入した。


 今はまた、針葉樹林にいる。テソは台の底部に軸受のようなものを器用にこしらえて軸をはめている。そして、台からでている軸に皮を巻きつけている。


 うーん、発想は間違っていないが、それではたぶんうまく回らない気がする。だが、ここはあえて口を出さずに失敗させるべきだろう。


 案の定、テソの第一案は失敗に終わった。テソの発見した『滑り』、要するに摩擦の違いをうまくコントロールすることができなかったわけだ。


 テソはくじけず次の試行をしている。そこでレベッカ少尉から着信が入った。


「今こそ!補助発明アイテムである『ろくろ』をテソに渡すのよ!」


「『ろくろ』ぉ?」


 はじまりの街の補助発明アイテムは買い占めたから、『ろくろ』は持ってる。レベッカ少尉は真面目な顔だ。


「『ろくろ』を倒して車輪にする開発ルートもあるのよ。さあ!ほら!」


 半信半疑で補助発明アイテムのろくろをテソに渡してみる。すると、テソはすべてを見渡せたように目を見開いた。


「そうか、そういうことだったんだ!」


 そう言うと、テソは今まで組んでいた試作品を解体しはじめた。


 そして、地面に板を1枚置き、その周囲にも板を配置した。周囲の板にカーブを作り始めた。


 カーブができると、皮を使って組み合わせて円状の板を作り上げた。それをもう一つ作る。


 軸が空転しないように角のある穴を開け、組み付ける。円状の板と軸を合わせたものを台座に組み込む。


 そう、これが車輪の原型であった。


 石切り場にこの車輪の上に台が乗った代物を運び込んだ。そして、そこで運び出す石を載せてテソ一人に動かさせてみる。すると今までの遅さが嘘のようにスムーズに運搬できていた。テソは興奮している。


「うわぁ、すごい!どこまでも運べそうだ!」


 そうこうしていると、目の前に発明ウィンドウという新しいウィンドウが出た。そこには、依頼票が表示され、


 『依頼が達成されました!!依頼票を斡旋所へ持っていきましょう!!』


 と表示されていた。


「これで家に入れるお金をもっと増やせるよ。ありがとう」


 テソの目は輝いていた。彼の家庭事情は悪い気がする。が、親をどうにかしなくてもテソならなんとかするだろう。


 また新しいウィンドウが出た。今度は『『物運びが得意なテソ』があなたのチームからの脱退を打診しました。受け入れますか?』と表示されていた。


 俺は短い付き合いだったな、と『承諾』を選択した。




 斡旋所で依頼表をカウンターにいる『親切な斡旋人ヒルダ』に依頼票を渡すと1000ルビー渡してきた。なるほど、これが報酬か。


 それとは別に紙を渡してきた。ゲーム的にはこれがリザルトなんだろう。評価は色々書いてあるがアルファベットは、『C』だった。まあ初見だしな。と思ったところで、


「最近馬泥棒がいるらしいのよ。アンタも気をつけな」


 ヒルダは無表情にそう言い放った。馬?


 嫌な予感が走った。俺は寝床にしていた車まで走っていくとそこには――


 『敬虔なる馬泥棒ジャッキー』とかいう泥棒が、ちょうど俺の四輪駆動車のエンジンを掛けたところだった!


「この野郎っ!」


 俺は暴言を吐きながら車にすがりつこうとする、と四輪駆動車は信じられない速度の立ち上がりでスピンターンをしたんだ。


 すると俺のジャンプは空振って地面に落ちる。土の味がする。立ち上がろうとすると四輪駆動車のフルパワーのエンジン音が聞こえてくる。


 音のする方を見ると、みるみるうちに四輪駆動車は小さくなる。諦めきれない俺は全速力で走って追いかける。


 肉体強化スキルがあるったって限度はあるわな。体力が尽きて形で息をしている俺は、彼方へ消えていく四輪駆動車を見送るしかなかった。




 レベッカ少尉からの着信で、開口一番彼女はこう言ってきた。


「まあ巨大な石で潰すとか炎上させても良かったんだけどね」


「あ?」


 俺はレベッカ少尉を威圧してしまった。


「……」


 レベッカ少尉は押し黙る。


 あー、まあ、あの車は俺が買ったもんじゃないしな。


 それに、あの状況を見るに最高グレードの車なんか次の町に乗り付けたらどのみち車泥棒かパーツ泥棒にでも持ってかれるかするだろうな。


 レベッカ少尉は深刻な表情で、ただ一言、口を開いた。


「ごめんなさい」


 謝られるようなことはされていない。ただゲーム中にあったできことだ。


「いや、いいんだ。こちらこそ怒鳴って悪かった」


 俺も謝罪する。


 レベッカ少尉は真剣な顔つきで言う。


「この手の問題に早めに私が気づけてよかったわ。次からは気をつけます。もうしません」


 いたずら好きなところははた迷惑だ。ない方が仕事は進む。だが、それではつまらないんじゃないかな、と俺は思ったんだ。


「いや、むしろ今までのアンタを崩されると調子が出なくなる。今まで通りでいい」


「でも――」


「いいんだ、なまじ車っていう現実味のあふれるゲーム中の所有物に愛着が湧いちゃったんだろうな。その程度の問題で、俺達の関係を壊してどうするんだよ」


「……そうね」


 レベッカ少尉がこれほど打たれ弱いとは思わなかった。見た目より幼いのかもしれない。彼女は調子を取り戻してきたようだ。


「次はあなたが作るであろう工場を燃やしましょうか!」


「その意気だ。だが絶対にやるなよ」


 俺は釘を刺すが、こいつのことだから燃やすんだろうなあ。そこがいいのかもしれない。そう思った。

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