19.微調整
翌朝、俺はチャンバーの中に入って待機していた。するとチャンバー内に音声が響き渡る。
「準備はいい?こちらは接続準備完了したわ」
レベッカ少尉の声だった。俺は答える。
「ああ、よろしく頼む」
すると、目の前の風景が壁の中から四輪駆動車の中へと変わった。
運転席では眠った気にはならないが、俺はベッドで寝てきたからな。スッキリしている。
車内であくびをしていると、テソが外にいるのに気がついた。俺は車外へ出る。
「研究費用が足りない。悪いが今日は本業をしていてくれ」
俺はテソにそう告げた。テソは頷くと、走っていった。
研究に日に180ルビー近く、そしてテソの従事に日に10ルビー。動物を売った金額を考えると5~6匹ほど狩れば良い計算だ。はじまりの街周辺には色々収入源があるらしい。
効率重視のレベッカ少尉は色々教えてくれる。
「狩りはあまりおすすめしないわね。この辺のはあなたの敵ですらないけど、探すのに手間がかかるわ。それに買取価格も渋い」
「テソのやってる石運びの仕事をあなたがやることもできるわよ。肉体強化スキルでいくらか持っていくだけでボロ儲けよ。ただしテソの機嫌が悪くなるわ」
「針葉樹は角材にすればそこそこ売れるけど、あの店あの街で完結してるからあんまり売ると買い取ってくれなくなるわよ。買い取ってもらえなくなるまで売って残りを資材になさいな」
「大穴は薪割りよ!ここだけリアリティの薄いところで音速で割れば限界なくいくらでもお金がもらえるわ!ただし薪割り10本で1ルビー」
覚えきれん。言われたことを書いておくメモが欲しい。そう思うと視界に『ログ』と『メモ』のウィンドウが出てきた。
ログには先のレベッカ少尉のマシンガントークがあった。喋ったことが文字になっているのか。これすごいな。
俺はこれを残したい、という部分を選択してメモに残したいと思った。すると、あっという間にログからメモのウィンドウに転記された。
――という事があったタイミングでレベッカ少尉が聞いてきた。
「覚えきれるー?メモほしくなーい?…あ、自分でできたのね。すごいすごい」
「レベッカポイントはくれないのか?」
俺は彼女をからかってみる。
「うーん、自分でできたのは偉いけど残念ながら基準対象外ですねえ~~~~」
レベッカ少尉は本当に残念そうだ。
俺はなるべくわざとらしくないように答える。
「残念だなー」
レベッカ少尉はニカッと笑った。
さて、資材が必要かつスキル調整が必要そうなので針葉樹林に来てみた。
まずは徒手空拳スキルで水平にチョップしてみる。すると真横にスパっと木が切れた。が、倒れない。蹴りを入れてみた。何か間違っている気がするがそのうちに倒れた。
すると、ゴールディ少尉から呼び出しが入った。
「高田さん、その切り倒し方は危ないです。倒れる方向がわからないので、もしHPが低い仲間が倒れる方向にいたりしたら、木で押しつぶして殺しかねませんよ。やるなら倒れる方向にくさび状に切れ込みを入れてみてください」
なるほど、俺は答える。
「ああ、そういう事も考えないといけないのか。このゲームは」
ゴールディ少尉は得意気に言う。
「リアリティがウリですからね」
どこがだよ。しかし、この能力、加減がほぼ効かないんだよな。そこのところを調整させてもらうか。
俺は倒した木を引きずって広いところまで持ってくる。そして、その辺の木の太めの枝を噛ませて転がらないようにした。
素手で加工しようしようとして、ん?何かが引っかかった。だがまあ失敗の一度や二度、どうということはあるまい。
水平方向に徒手空拳スキルでチョップしてみる。すると、置いていた木が粉微塵になって消えてしまった。あっこれはもしや。レベッカ少尉に聞いてみるとしよう。
「あー、そうよ。現状のあなたのスキル設定はそういう調整できなくしてるわね。あなたの徒手空拳は対象にゲーム中の最大ダメージを与えてHPも耐久値もほぼ0にしちゃうから、その状態の対象にダメージなり耐久値減なりする行動をすると消失しちゃうのよね」
俺は丸太を粉微塵に破壊した時のことを思い出している。
「HPと耐久値はちがうのか?」
俺は疑問をぶつける。レベッカ少尉は真面目に答える。
「HPは対象が活動できるかどうかの値。耐久値は対象が形を保っていられる指標値。このゲームではそういう違いがあるわね」
俺はさらに疑問をぶつける。
「何度か、俺のその世界最強っぽい攻撃を弾かれた記憶があるんだが…」
レベッカ少尉は解説を始める。
「最初の灯籠と8本目の丸太は私が意地悪でパラメータ操作したわね。部族の投げ攻撃はスキルよ。武器破壊したり無効化するためにはスキルそのものを無効化するか、パーリングスキルで弾く必要があるわ。スキル無しで弾く場合も攻撃を受け続けてパーリングのステータスを上げる必要がある」
俺は欲しがった。
「スキル攻撃を手っ取り早く弾きたい。パーリングスキルをくれ。ステータスを上げるのでもいい。それと徒手空拳は全力のみじゃなくて調整できるように遊びを入れてくれないか」
「任してね。あと、すごいスキルをあなたに幾つもあげてるけど、それを調整する時間で手持ちの木工工具で切り倒して加工するほうが早いかもよ?」
そう言いながら彼女は微笑んだ。なるほど。人は道具を使うよな。
テソが買った木工工具の中に斧があったので適当な太さの針葉樹に刃を入れてみた。
あまりに適当すぎたのか途中でゴールディ少尉に歯がこぼれたりするからちゃんとやれと言われたり。
そんな風になんやかんやあって、なんとか切り倒した。そしてオペレーター達のアドバイスもあり、なんと斧だけで角材に加工することが出来た。
時間としてはどうだろう。肉体強化スキルも手伝ってか現実での作業よりかなり早い気がする。
気になることが出来たのでゴールディ少尉を呼び出して聞いてみる。
「物の耐久値は買取価格に響いたりするか?」
「響きますね。だって、壊れそうもない木材と今にも崩壊しそうな木材に同じ値段を付けないでしょう」
当然のごとくゴールディ少尉は言う。確かに、当然だわな。俺は聞く。
「この木材の価値がわからんのだが、どうすればいい?」
ゴールディ少尉は待ってましたと言わんばかりに解説を始めた。
「一応、その角材もステータスを持っていてステータスウィンドウを見れば価値が入っているんですが、買い取り価格とは必ずしも合致しません。アイテムを店に持ち込んでみていくらで買い取ってくれるか見るのが一番ですね」
俺は礼を言う。
「わかった、ありがとう」
早いとは言え朝から作業して昼前までで角材8本を用意できた。まず売価を知りたいし、昼を食べたいのではじまりの街に戻ることにした。
ジョニィに角材の売却を持ちかけると軽く応じ、やはり施設の裏側へ案内される。
「角材は正直在庫がだぶつき気味なのですが…400ルビーでいかがですか?」
俺は快諾した。
「ああ、それで頼む」
1本50ルビーか。テソの欲しがる部材を一緒に作ればなんとかなるかもしれん。とりあえず作れるだけ角材を作ろう。