18.艦内食堂
ゲーム世界から戻ってきた俺は、見慣れた壁に囲まれた空間に立っていた。レベッカ少尉の声が聞こえる。
「処理はもう終わってるわ。出たらそこで待っててね!」
物質転送で外に出た俺はものすごい早さでこちらに走ってくるレベッカ少尉と、それからかなり遅れてへろへろ走ってくるゴールディ少尉を目にした。歩けばいいじゃないか。
「へっへっへ、お待たせー。晩御飯いきましょうよ」
レベッカ少尉は息を切らさずこちらまで来ていた。前は息を切らしていたが。
かなり遅れてゴールディ少尉も息も絶え絶えに到着した。
「なんでここで競争とか言うかなあ…ふう」
ということで、あの巨大な中央通路を抜けて食堂があるというのでやってきた。俺は気になっていたことを聞く。
「ここのメシ代はどうすればいいんだ?流石にまたおごってもらうのは気がひけるぞ」
ゴールディ少尉が答える。
「お忘れですか?とった分だけあなたの報酬から天引きです」
「ほー」
俺は感心する。レベッカ少尉は待ちかねているように言う。
「食堂の食事で報酬が消えたりはしないって。行きましょ」
艦内の食堂はビュッフェ形式で、好きなものを選んで自分で取るスタイルになっていた。俺はとりあえず御飯と味噌汁、鶏の照り焼きとほうれん草のあえものやフルーツゼリーなどを腹一杯分取ってみた。
適当なテーブルに座るとゴールディ少尉がやってきた。パンなどの洋食が中心だが、やけに少ない。彼は俺の視線に気がついたようだ。
「ダイエットしてまして…」
なるほど、と思っているとレベッカ少尉がドカン!とプレートに乗り切らないほどの量の食事を持ってきていた。パンや米などはなく、肉がどっさりあり、果物や野菜が申し訳程度にあるくらいだ。
「私は大体2日に1回はこれよ。それで激しい運動もしてこのナイスバディーを維持してるってわけ」
まあ、俺がつい見てしまう程度にナイスバディーだ。3人揃ったので食事を始める。
食事しながらの話は弾んで、こんな話題になった。
「あなたにPC版やらせてからにしようって計画もあったのよね」
巨大な肉を切り分けながらレベッカ少尉は言う。
「PC習得後の高田さんだと忙しいって断られたんだよなぁ」
こともなげにゴールディ少尉が応じる。えっ、ちょっと待ってくれ。俺は言わなければならない。
「未来の俺が断ったから今の俺に話を持ってきたのか?」
ゴールディ少尉が簡単に言う。
「この戦闘艦はタイムマシンなので、そういう順番に話を持っていったわけですよ」
本当に簡単だ。なるほど…?俺は疑問をぶつける。
「そこまでして俺にやらせたかったのか?」
レベッカ少尉は珍しく黙っている。ゴールディ少尉は頭を振って言った。
「それはあなたには言えません」
じゃあそんな話をするなよ、と思った。しかし、その上で2人は俺に何か気づかせようとしているように誘導している。俺はそんな気がした。なぜ?
何か思ったのか、レベッカ少尉がフォークを片手に言う。
「まあ、察してくれたらレベッカポイントをあげるわ。その程度のことだから」
食堂の食事は現場の仕出し弁当よりはうまかった。俺は完食した。レベッカ少尉も。ゴールディ少尉は残した。
2人と別れて自室に入ると、俺はシャワーを浴びた。そしてベッドに入った。こうして、仕事の一日目が終わったのである。