17.金策をせねば
皮2枚が買えない俺だが、テソから思いもよらないことを言われた。
「家族を食わせないといけないので、日の稼ぎ分をもらえないかな」
テソは発明している間、石運びは完全に休業している。おまけに同僚に実験の手伝いもさせているそうだ。仕方ない、と俺は聞く。
「そうか、でそれはいくらなんだ」
「10ルビーだよ」
テソは申し訳無さそうに言う。それで俺は10ルビーを渡した。するとさらに、テソは家に帰る時間だと言う。
テソは10ルビーの礼を言うと家に帰っていった。既に太陽は沈みかけていた。
さて俺はどうするか。1日の活動費が200ルビー程度でカツカツなのが若干不安だ。金策か、いっそ寝るか。するとレシーバーにレベッカ少尉からの着信があった。
「これからは特にモンスターや夜行性の動物が活性化する時間になるから、そのモンスターや動物を狩ってポケットに入れて店に持っていくとそれなりの値段で売れるわよ」
「俺の実力で倒せるだろうか…?」
俺は不安になっていることを打ち明ける。レベッカ少尉はクスクス笑いながら教えてくれる。
「このあたりのモンスターは針葉樹よりもろいわ。あなたの徒手空拳スキルなんか使ったらグチャグチャになって商品価値が下がるわよ」
さて、野生動物やモンスターがいるらしいと教わった、近くの森に来てみた。
鹿がウロウロしている。ダッシュして近寄ってみたら一目散に逃げ出した。あれを追いかけるのはなあ。
しばらくまた歩いていると、血なまぐさい臭いがする。あー、これは肉食動物ですねえー。と、動物番組さながらに考えながら戦闘態勢を取る。俺の危機察知スキルが正面を指していることからも、向こうも気づいて攻撃してきたことは明白だ。
よく見えないが危機察知スキルが指す方向に鉄拳をねじり込む。
こちらに向かってきた肉食獣は俺の拳をもろに受けると、向かってきた方向と反対方向に吹き飛ばされて樹木に激突したらしい。衝突音がする。
俺はこれ幸いと近づき、首らしき太い部分を絞めた。ほどなくして、肉食獣は完全に息絶えたようだ。呼吸をしていない。
名前を確認してみると『人食いトラ』だった。そして、こいつの獲物は『バッファロー』だった。生息地域が変な気がするが、気にするだけ無駄だろう。
二匹の死体を引っ張ってポケットに近づけるとスルッと勝手に入って消えた。
ここで、レベッカ少尉の言っていた、『インベントリーリスト』を思い出す。所持品を管理できるのだろうか。軽く念じてそのウィンドウを出すのは簡単だった。
マス目状にならんだ箱の中にグロテスクな死体2体と電話に使っていたコインと木工工具、そして依頼票が収まっていた。
もう少し念じるとカーソルが出現した。カーソルを人食いトラに向かって動かそうと念じると人食いトラっぽいシンボルに吸い込まれるように移動し、吹き出しが出てきた。
吹き出しには全長や重量などのデータらしき文字が出てくる。『食肉には適さない』という解説までついていた。
「このシリーズにおいては、加工をすればするほど、その経済的価値は上がるように設計されています。つまり」
ゴールディ少尉は俺に説明している。無論金策についてだ。ゴールディ少尉は結論を言った。
「あなたができる加工を材料に最大限行えばいいわけです」
「簡単な木工工具しかないぞ」
俺は答える。ゴールディ少尉はこともなげに言う。
「こう、手刀でズバッと水平に切れば」
「そうはいうが」
俺は苦笑する。ゴールディ少尉もつられて笑う。
「ハハ、スキルを調整するときかもしれませんね。レベッカ少尉に相談してみては」
レベッカ少尉は任せなさいとばかりに俺のスキルについて請け合ってくれる。
「もちろん、やるわよ。ただ、この作業はキャラクタークリエイトと同じくらい時間がかかるわよ?その死体だけ店に売っぱらって車で寝たら?」
彼女の提案はもっともだった。俺ははじまりの街に向かうことにした。
完全に夜になっているのにもかかわらず、街の施設は営業しているようだった。俺は店のカウンターに向かい、ジョニィに動物の死体を買い取れないか聞いてみた。
「肉や皮が取れそうなものなら買い取りますよ。ここでは何なので裏で見せてください」
まあ、死体をバァーンとカウンターに置くような大味なゲームじゃないのはわかってた。俺は裏手に回ってジョニィに死体を見せた。ジョニィは顎に手を載せて考えている。
「そうですね…あわせて35ルビーと行ったところですが、いかがですか」
新たな『取引』ウィンドウが出現した。格子の枠が4つあって、それぞれが俺の持ち物、ジョニィの持ち物、俺の渡すもの、ジョニィの渡すものに別れている。俺の渡すものの欄には死体が既に入っていて、ジョニィの渡すものの欄には35ルビー入っている。
一番下に『取引成立』の欄があるので選択してみる。するとジョニィは35ルビーを手渡してきた。取引成立したってことかな。ジョニィは取引成立だ、と言って死体を運び出す。
すると、裏口から『泥酔するバーテンダークリス』が現れた。こいつはバーのカウンターにいる人物だ。名は体を表さないな、真っすぐ歩いて来た。そしてクリスはジョニィに言った。
「そのバッファローを売ってくれ」
「このままで構わないのか」
ジョニィはクリスに尋ねる。クリスは当たり前だ、と答えた。ジョニィとクリスは何かやり取りを始めた。値段交渉でもするんだろうか。
俺はこの場にいる意味は無いと思い、とりあえず車まで戻ることにした。すると、レベッカ少尉から呼び出しが入った。
「ねえねえ、さすがの高級車も車中泊には向かないわよ。車で寝てログアウトを選べば現実空間に戻れるから、チャンバーから出て夕食でもとって、自室のベッドで寝たらどう?」
「助かった。そうしよう」
車で寝ると体が痛くなって休んだ気になれないんだよな。俺は街の出入り口付近のフェンス前に停めてある四輪駆動車に乗った。座席を倒し、目をつぶると『あなたはログアウトすることができます。ログアウトしますか?』という文字が出現した。もちろん、『OK』を選んだ。