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16.完成なるや

「うーん…」


 テソは悩み続けている。俺は補助発明アイテムの『軸』をいつ彼に与えるかの機を伺っている。


 発明者が段階を乗り越える、その時こそ補助発明アイテムが真価を発揮する、とスタートアップガイドにも書いてあった。俺はテソに尋ねる。


「何が引っかかってるんだ?」

「コロの滑りを活かしつつ、コロを交換しないでいい方法があると思うんだ」


 テソはそう言いながら木の枝で地面に何か書いては消している。するとレベッカ少尉から呼び出しがあったので出る。


「『軸』、そろそろ渡してもいいと思うわよ?そこから車輪に至るまでもう少し掛かるし」


 彼女は眠そうな顔で言う。そろそろ交代するのだろうか。


 俺はテソに『軸』を渡した。テソの手の中で補助発明アイテムが溶けるように消えた。すると、テソは急に得心がいったらしい。木材を加工し始めた。


 そして、そうこうしているうちにテソは俺に物品の購入を願い出てきた。


「滑りやすさを場所で変えたいんだ。動物の皮が欲しい。それともっと木材も」




 二人で店に来た。そして、ジョニィに条件に合う皮を探してもらう。まあ、だめならそのへんの野生動物からいただくまでだが。いただければな。


「こちらなどいかがでしょうか」


 ジョニィは店の奥から手頃そうな皮を2枚ほど持ってきた。


「2つで15ルビーです」


 それぐらいなら、と買おうとしてポケットを探る。出てきたのは13ルビーだった。足りない…?俺は自明ではあったが、テソを問い詰める。


「テソ、アンタ一体何をどれくらい買ったんだ!」

「木材と道具だけだよ!必要な分だけ!」


 テソは嘘は言っていないだろう。実際真面目に研究して成果を出してきている。困ってしまったのでゴールディ少尉に相談することにした。


「申し訳ない、それがそのバージョンの発明王とVRMMO版の発明王の違いです。チーム内の研究費や資材の扱いがまるで違うんです。」


 ゴールディ少尉は一呼吸置いて続ける。


「ただ、店まわりに関してはほぼ変わっていなくて、店売りのアイテムは一定のクォリティが保証されますが、代わりに割高です。資材の調達もこのゲームの醍醐味ですよ」


 彼のこの何があってもこのゲームに引き込もうとする姿勢には敬意を表するが、同時にいらだちを感じずにもいられないときもある。まあ説明とアドバイスとしては妥当だ。レベッカ少尉にも聞いてみた。


「近くに森があるからそこの木を切り倒したらいいんじゃない?皮を買う代金もその木を角材に加工して売っちゃえばいいわよ」


 実に効率的で模範的な解答だった。俺は一応聞く。


「その木は担いでいくのか?車で引いていくのか?」


 レベッカ少尉は呆れ返っているのか、困ったのか、苦笑しているのかわからない表情になってこう答えた。


「そういうプレイはできるからしたければご随意にやればいいけど、あなたのポケットには20本くらい切り倒した木が入るし、大木担ぐとか余裕よ?」


 俺は納得がいかない表情をしていたらしい、いや、そういう思考をしていたのか。レベッカ少尉はそれを読み取ったらしい。彼女はしょうがないなあ、という表情を崩しきれていないが真面目な顔をして解説を始めた。


「この手のゲームではね、インベントリーリストのマス目によって物のサイズを表現することもあったのよ。でもあなた、大木や木材を操作するのにインベントリーリストを大幅にはみ出るとかいうユーザーインターフェースというのは言わせてもらえば設計ミスよ?」


 そして、すぅっとレベッカ少尉が一呼吸おいて続ける。


「それにこのシリーズはリソースを大量消費するのがユーザー体験としてウケているのよ。そのあたりの塩梅がゲームデザインというものなの」


 ついに、俺はすねて口答えをしてしまった。


「残念ながら、俺はゲームを作ったことがないのでそのあたりのことはわからん」


 つられて、レベッカ少尉は完全にしょうがないなあ、という表情になってしまった。


「私も本格的には、ないわ。ただまあ、あなたのいたところのゲームでも表現上、多少の無理や無茶は見ていたはずよ。VRで見るから理不尽に見えるだけであって、大剣を何本も持ち歩けたりするゲームなんていくらでもあったでしょ?ゲームはそのへんは歴史を積み重ねても変わらないのよ」


 たしかにそうだ。彼女はこう結んだ。


「あなたは発明王をプレイすることでゲームの歴史を一足飛びどころかかなり飛ばしているわ。それがストレスになっているのはわかっていたから、このチュートリアルはあなた専用にウルカヌス内のゲームイベント開発チームによってフルカスタムしたの。だからその飛ばした段を後追いしているあなたにも飲み込めるようにしてあるのよ。だからお願いだからわかって」


 俺は反省しなければいけない。まさかゲームキャラクターが勝手に所持金を使い切るとは思わなかったからな。ん、プレイヤーの所持金を奪うゲームキャラクターは俺も知っているじゃないか…?いや、今はどうでもいいことだ。俺は思ったことを口に出す。


「申し訳ない。俺の頭が固かった。所持金が一気に減ってたのに参ったらしい」


 レベッカ少尉は満面の笑みを浮かべている。


「いいのいいの。チュートリアルも順調にこなしているし、金策なんてなんのその、よ。私とゴールディ少尉はこのゲームをしゃぶりつくすのが任務だったこともあったんだから、あなたはその2人を利用しない手はないわよ?」


 言われてみれば2人とも謙遜してたりちゃんと言わなかったりするが、かなりこのゲームをやりこんでいる。しかも24時間いつでもアドバイスをくれると言っているんだった。安堵した俺はある疑問をレベッカ少尉にぶつけてみた。


「そうだった…ところで、出入り口に止めている車を売ったら当座の資金に困ることはないんじゃないか?」


 レベッカ少尉は理解不明な妙ちくりんな表情をしてこちらを指差した。そしてこう言った。


「あれたぶん売価高すぎてショップ店員が買い取れない」


「ああ、そういや経済がどうのって前に言ってたが」


 俺は思い出しつつ聞いてみる。レベッカ少尉はごきげんな表情である。彼女は言う。


「ゲーム内に簡単な経済システムがあるのよ。その辺は適当にアイテムを手に入れて売ったり買ったりしてみればわかるから、試してみてね」


「わかった。ありがとう」


 俺は礼を言うとスッキリした気持ちになった。

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