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13.車輪の再発明

 街の施設が揃っている建物には3つの施設が揃っている。店と仕事の斡旋所と酒場だ。カウンターはそれぞれ3つに分かれている。眼前に出ているレベッカ少尉が表示されているウィンドウと呼んでいた板を斜め前くらいによけて彼女に聞く。


「なあ、気になるんだが。このレシーバーはどういう仕組でこの視界を提供しているんだ?」


 レベッカ少尉は得意げな表情になり答える。


「そういう質問はゴールディ少尉のほうが得意で好きね。彼に答えてもらいましょう。通話チャンネルを別けてあるから、カーソルで彼の顔を選んでレシーバーのスイッチを軽く押せばそちらに繋がるわ。やってみて」


 すると彼女のウィンドウが消去され、チャンネルリストとタイトルが付いたウィンドウが出てくる。中にはレベッカ少尉とゴールディ少尉の顔と名前が描かれている。ここでレベッカ少尉を選ぶと面白いお言葉をいただけそうだが、指示通りゴールディ少尉を選んで耳の中のレシーバーのスイッチを押す。するとウィンドウが表示され、ゴールディ少尉が出てくる。


「あっ、レシーバーを手に入れたんですね。しかもそのモデルですか。お目が高い」


 彼は楽しそうだ。俺は気になっていることを聞いてみることにした。


「これは一体どういう仕組みで目の前にこのウィンドウを出したり引っ込めたりしているんだ?」


 ゴールディ少尉は一瞬眉間に皺を寄せ、手を口に寄せたが、それをやめ、こう答えた。


「その本体自体がコンピュータで一種の医療機器なんです。耳の中に入れて起動するとプシューって音がしたでしょう?あれはマイクロマシンと呼ばれる極小の機械を毛細血管内にエアロゾル注射する音です。マイクロマシンは血管内をさかのぼり涙腺や眼球の血管の隙間から更に小さい子機を射出、その子機が黒目の上で群体を形成することで表示を行うディスプレイになるというわけです」


 説明はとりあえず理解できた。俺は感嘆の声をあげる。


「なるほど…すごい」


 ゴールディ少尉は続ける。


「ゲームの基本的な情報表示、我々への通信は基本的に傍受や妨害などはされません。さすがにゲーム的にそこは他のプレイヤからどうにかできては問題ですからね」


 俺は引っかかった。


「『基本的に』?」


 ゴールディ少尉は残念そうに答える。


「プレイヤの中にはシステムの脆弱性やバグを探して本来できないことをしようとする人もいるんです。我々も監視してなるべく穴は塞ぎ最新版を使うようにはしているんですが。あと、そういったイベントもなくはないです」


 俺はらしくもないイタズラ心が出そうになったが、おくびにも出さないようにしてゴールディ少尉に尋ねた。


「そうか、で、このゲームの質問はアンタとレベッカ少尉のどちらにすればいいんだ?」


「私が一番詳しいです!と言いたいところですが、レベッカ少尉もこのゲームを結構やりこんでいるのですよ。ですので、どちらに聞いてもいいと思いますよ」


 ゴールディ少尉は謙虚に答える。俺が礼を言うとウィンドウが消えた。




 俺はずっと待っていたと思われる店員にも礼を言うと斡旋所のカウンターの方に向かった。


 カウンターにはボードが立ててあり、それには発明・仕事・その他に区切られて線が引かれていた。俺はここでやっとスタートアップガイドで予習した要素にたどり着いたわけだ。長かった。


 発明を斡旋、というのはやや妙な用語だが、元々の発明王のゲームシステム的には目標となる発明を選び、達成するスピードや質などを競うので、VRMMO版ではこうなった、ということだろう。


 ボードにはただ一枚、発明の欄に依頼票が貼り付けられていた。見出しには『車輪』とある。俺はそれをはがし、カウンターに置き、『親切な斡旋人ヒルダ』という文字が浮かんでいる中年女性に請け負う旨を伝えた。彼女は依頼表を受け取ると、依頼票に何か書き入れてスタンプをつくとカーボンコピーだったらしい、写しを俺に渡してきた。


「承りました。それでは、よろしくおねがいします」


 ヒルダは無表情で答えた。




 ここからの流れはほぼ、帰る時にもらったスタートアップガイドにだいたい書いてあったんだよな。店に売っている補助アイテムを買っておいて、施設内にいる発明ができそうな奴を探してそいつに発明を持ちかける。すると、そいつが受けてくれれば発明の研究が始まる。研究がかんばしくなければ補助アイテムを投入する。そういう流れだ。


 ふたたび店員のジョニィの前に来て、俺はこう尋ねた。


「お助け発明、あるかい?」


 ジョニィは怪訝な顔をして急にぶっきらぼうになってこう返してきた。


「いや…申し訳ないですがないですね…。何ですかそれ」


 え、なにそれ。俺がぽかん、としかけているとゴールディ少尉から通信が入ったので出る。


「申し訳ない。以前渡したスタートアップガイドはVRMMO版とプラットフォームが違う古い日本語版で、用語の翻訳も珍訳といわれるくらい珍妙なことで有名だったものです」


 ウィンドウのゴールディ少尉も申し訳無さそうだ。聞けば、日本語翻訳は難しいものらしく、こういうことはよくあることだそうだ。それでも良い日本語で遊びたいとユーザーが自ら翻訳することもあったりするというからゲーム熱というものは恐ろしい。俺なんかは普通だな、と思わされる。


 なぜそんなスタートアップガイドを渡されたかと聞くと、ゴールディ少尉はこう告白した。


「私のコレクションと取り違えてしまいました。申し訳ないが後で取り替えさせてください…」


 こいつそこまで発明王が好きなのかよ。そう思うと笑いがこぼれてくる。


「ハハ、そうか。わかった。で、なんて聞けばアイテムを出してもらえる?」


「ヘルパーインベンション・補助発明プレート・発明を手助けする何か、のような言い回しで聞けば出してもらえますよ」


 ゴールディ少尉の出した例はなんとでも言っていい、と言っているようなものだ。俺は疑問をぶつける。


「その言い方がどれも通じるなら『お助け発明』が通じないのはおかしくないか?」


 ゴールディ少尉は困ったような顔をした。


「どうも、メーカー側がその珍訳を過去の汚点と捉えているらしく、ゲームシステム固定のブラックリストワードに入っています。こちらもライセンス契約して買っているのでそのあたりをいじくるわけにもいかないのですよね…」


 なんとも悲しい話だな。俺はゴールディ少尉に言う。


「わかった。『お助け発明』をさければいいんだな?」




 補助アイテムを無事手に入れた俺は施設の中の残った連中を見渡すと、上半身裸の少年が目に入った。頭上の名前には『物運びが得意なテソ』とある。名は体を表すってか。彼に声を掛けてみよう。

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