11.バレットタイムアクション
何度もやるより相談すべきか、と思った俺は街の入口を入ってすぐにある、例の公衆電話の前に立った。重たい気持ちで受話器を取り、コインを投入する。
呼び出し音がする。しばらく鳴ったような気がするが、それは気のせいですぐに誰かが出た。
「マサル、どうかした?」
レベッカ少尉だった。ゴールディ少尉に繋がるかと思ったが、そういうことではないらしい。確か彼女直通で繋がると言っていたな。本当にいつ寝るんだ?それより、疑問をぶつけてみる。
「街の施設を使いたいんだが、変な親子が邪魔してくる上に親が強すぎて死ぬ。謝っても許してくれない。どうにかならないか」
レベッカ少尉は語気に最初会った頃のミステリアスさをまとって俺にこうささやいた。
「あなたは簡単なことを見逃しているだけよ。それはまあ、オペレーター権限であのイベントを消すのは簡単よ?だけど導入ミッションに手こずるようじゃこの先やっていけないわよ?でも、ちょっとこのチュートリアルは意地悪すぎるわよね。ゴールディ少尉、なにかアドバイスをあげたら?」
受話器から今度はゴールディ少尉の声が聞こえてきた。そういうこともできるのか。
「初見殺しは死んで覚える、が基本ですよね。つけくわえるなら、きっかけが何であるか、それを考えてみてください。」
あの親子(?)の攻略方法を考えるべく、俺は例の大きめの建物の裏口に回って勝手口から入り、施設の従業員に見咎められる前にフロアに入った。そして向こうにある客用の入口付近を眺めてみると、例の子供がいた。
明らかに出入り口の前に張っている。しばらく見ていると…パイプか何かを取り出して、タバコを吸っている?とすると、あれは子供じゃない。
5人組にしてもテーブルには料理があるが遠目に見ても料理に手を付けている様子はない。
あの親子(?)を無視して裏口から入れば施設が使えるのでは、と思ったが、俺がいる建物の奥側にあるカウンターには誰もいない。対処するしかなさそうだ。ここはトライ&エラーができそうなので色々試そう。
まずは横を意識しつつ、入り口からとっとと入ってみる。するとあの小さい方は尻にぶつかって転んでみせた。
「うちの子に何してくれるんじゃコラァッ!!」
俺はまた、街の入口に転がっていた。
次に入って最初にたっていたところから一歩後ろに下がる。小さい方は俺に足を引っ掛けられたとばかりに目の前でこけてみせる。
「うちの子に何してくれるんじゃコラァッ!!」
俺はやはり、街の入口で倒れ寝転がっていた。
破れかぶれになって俺は今度はあの小さい方にぶつかられる前にテーブルにいる大きい方を先手必勝でのしてしまえばいい、と考えた。施設に入っていきなり奴らのテーブルに走っていき、手近な奴から顔にパンチを入れていった。
4人目までは徒手空拳スキルを使わずノックダウンできたが、最後の一人が目にも止まらない早さで刃物を抜いたかと思うと危機察知とバレットタイムのスキルがほぼ同時に発動したようで、一気に周囲の風景の彩度が落ちて周りの速度が遅くなった。だが、最後の一人は既に俺の目の前に立っていて、やつの手にある刃物は俺の首を挟み込むようにして絞り込まれているのが危機察知のスキルで確認できた。手持ちでも使えるんだな。奴はバレットタイムの中でやっと目で追える速度で動いていたわけだ。
そして俺はまた街の入口に倒れていた。施設の外まで来て考えている。殴り合いでは勝てない相手か。ではあの小さいのをこけさせないようにすればいいのでは?それに、あいつは分別のつかない子供じゃない。ということは。
俺はスイングドアから施設に入り、待ってましたと言わんばかりに俺に向かって走り出した子供(?)に向かいあい、しゃがんで両肩を掴んでこけたりしないようにしてこう言った。
「もうその手には引っかかんねえぞ。いい加減にしろクソジジイ」
クソババアやもっと若い可能性もあったが、言ってみた。
「5回、か。まあまあ悪くない数字じゃな。」
ジジイであってるのだろうか、そいつはニヤニヤ笑いながら続ける。それよりこいつ試行回数をカウントしてるぞ。奴は言う。
「こんな簡単に破られるようじゃ商売あがったりじゃわい。みんないくぞ」
5人組が一斉に立つと、俺達を無視してスイングドアから勢い良く出ていった。と、思うと手で握っている感触がなくなりジジイがスイングドアの前に立っていた。奴は言う。
「残念ながら、ここの食事は我らの口には合わんようでのう。お前に譲ってやろう」
そういうと奴らは完全に出ていった。よく言う。すると、施設内にいた人々が半分以上、どっとスイングドアから出ていった。やれやれと言いながら出ていったり、中には俺にお礼の言葉を投げかける人もいた。なんだこれ。もしかしてあいつら町の住人をせき止めてたのか?
そしてテーブルの方に行ってみる。実際、試行錯誤しているうちに空腹感はかなり高まっていたんだ。5人分は食べられないが――と思っていたが、テーブルには1人分よりちょっと多い量の食事が用意されていた。パンに目玉焼きに焼いたステーキ牛らしきものとサラダ、そしてコンソメスープ。テーブルにはザラザラの色がくすんでいる紙が例の奴らが使っていた刃物のミニチュア版、とでも言うくらいのサイズのナイフで留めてあった。
紙にはスコアの増減についてのいわば結果が書かれており、最後にはクリアランクAと書かれていた。
俺はそれを確認するとテーブルの食事にありついた。うまい。