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01.アブダクション

続くように頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします。

 時は1992年。日本は未曾有の好景気に恵まれていた。


 物は売れ、人口は増え、何をやっても商売になった。東京湾の真上には巨大な建造物が建設中だ。都心には高層ビルが次から次へと伸びていっている。


 故に、どんな奴でも就職口に困ることはなかった。そのはずだった。


 俺は高田勝。東京出身の生粋の日本人だ。


 工学系の大学に入れたものの、面接官を殴ってしまったり口答えをしたりした挙句、ついに新卒で就職活動を終えることができなかった。


 俺には人の下で働く能力がないのかな、とうぬぼれつつ自分をなぐさめていたものさ。


 それで今はそのまま大学を卒業し、工事現場やら建設現場やらで日雇いで働いてなんとかしのいでいる。


 幸い車両系建設機械の資格を取っていたので、腕が何本もある重機を扱う仕事をもらった日には日当をかなり弾んでもらって、もうこの人生でいいかな、工学の道は諦めてもいいかな、と思ったり始めていた。


 金を稼ぎ、飯を食い、酒を呑み、時には気に食わないやつと喧嘩したりする。それでいいじゃないかってな。

 

 そんなある日、飲み屋から珍しく喧嘩をせず家に帰っていたんだが、家の前の曲がり角に入りかけたところで、目の前が急にふわっと明るくなった。


 と思うと、周囲に光が現れ、光が強くなり、気がつくと四方を壁に囲まれていた。

 

 壁は狭く、立って入るのがやっとの広さだ。ほろ酔い加減でこういう幻覚は普通見ない。そう思ったところでほぼ酔いが冷めた。


 もしかしたら垂直に立った棺桶の中にいるのかもしれない。


 そう直感したところで目の前に小さな窓のようなものがあり、光沢のある黒いガラスのようなものがはめ込まれているのに気がついた。

 

 すると、そのガラス板を意識したのを待っていたかのようにファンファーレのような音楽が耳をつんざく大音響でどこかからともなく聞こえてきた。


 ガラス板は明るくなり、映像が写った。このときはわからなかったが、後でこれはテレビのようなものだと理解した。

 

 映像にはシワが目立つ老年の白人男性が映っていた。薄い緑色の服と帽子に身を包んでいて、シルバーの髪。そして、気持ちの悪い満面の笑みを浮かべていた。

 

「F.I.S.S ウルカヌスへようこそ!私はベルモンド=フォン=ハウンドブラスト=リゼルスキー大佐だ」

 

 白人男性はそう日本語で名乗った。

 

「高田勝くん」

 

 奴は俺の名前を知っている。俺は黙って聞いているしかなかった。

 

「君はいわゆる、アブダクションをされたわけだが、何か感想はあるかね?」

 

 その横文字はオカルトブームがあった頃に聞いたな、と思い出すよりも先に、俺の怒りは急激に高まり、そのことで怒声を上げ、壁を思い切り叩いていた。

 

「何を言ってやがるんだ!!ここから出せこの野郎!!!!」

 

 俺は叫び、壁を思い切り何度も何度も殴り、力いっぱい蹴りつけた。壁は内装に使うにしては妙な柔らかさをしている。俺の暴力は無意味だった。


 奴はおどけた仕草をしたあとに俺の怒声と暴力が止むのを待ち、気持ちの悪い笑顔を維持したまま自分の都合を俺に告げてきた。

 

「感想をありがとう。私のことは愛をこめて『艦長』と呼んでくれたまえ」

 

 ガラス板には地球が、そして俺のよく知る日本が映された。俺はガラス板にも鉄拳をねじり込むが、拳が痛いだけでガラス板には傷一つつかない。


 むしろこれはガラス板じゃなく特殊な樹脂か何かじゃないか?という硬さだ。


 俺はここで完全に酔いが覚め、この『艦長』に怒りをぶつけても事態は良くならない、いやむしろ悪くなることを理解した、いや奴にさせられたのだ。俺は壁の中、奴は違う。


 カーッと来ていた頭も冷え始めた。

 

 どうすべきか、わからない。とりあえず呼びかけてみるか?

 

「艦長」

「何かね?」

 

 ガラス板は艦長を表示し、艦長は俺の怒声や壁への暴力も気にかけた様子もなく応じる。俺は続ける。

 

「俺はなんでここにいるんだ?人体実験でもされるのか?」

 

 艦長の笑顔の端が上がった気がした。

 

「どちらかと言えばする方だな。割のいいアルバイトをしてはくれんかね?」

 

 アルバイト?なぜここでアルバイトなんだ?俺は聞くしかない。

 

「仕事をくれてやろうって言ってるのか」

 

 艦長は答える。

 

「そのとおり、ちょっと変わった人体実験をするアルバイトだ」

 

 UFOに誘拐されて人体実験をやらせられるバイト?明らかにやりたくない類の仕事だと思った。俺はいう。

 

「絶対いやだ。元のところに帰してくれ」

 

 艦長は笑顔は崩さずに困ったような表情になった。

 

「報酬は10万ドル…いや君の国の貨幣は円か。1260万円ほど、非課税になるように君の銀行口座に振り込み、元の位置と時間に帰してやろう、というのでは不足かね?」

 

 俺はこういうのもなんだが天気屋だ。気分がコロコロ変わって自分でも困っている。


 そうだな…1260万円もあれば余裕を持って準備して起業できるな。だが、もっとほしい。


 艦長が変なことを言っていたのも気にせず俺は即答した。

 

「そいつが着手金で総額で4倍出してくれるなら考えてやってもいいぞ。詳細を教えろ」

 

 艦長は満足げに手を広げ、俺に告げた。

 

「構わんよ。ではそこから出そう」

 

 そして俺は再び光に包まれたってわけだ。

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