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8話

 日付け変わって、明くる日の昼過ぎになってますの。


 ゆうべは変身するための細かい打ち合わせやら、いろんなとこへの根回しでバタバタしていたので、知らないうちに泊まり込んでいた、という結果になっていた。


 つまりは、ジェイクのお部屋に二泊してるのに、未だにピンクな夜は迎えていない、ということなワケ。


 私的には眠るまで彼の顔見てられるから嬉しいのだけれど、泊まられた当人にとっては納得できる状況ではなかったらしく、非常に不本意な表情をしっ放しだ。


「ジェイク〜、どっか変になってない?」

「ああ、大丈夫だ、問題ない」


 疲れた顔をしながら投げやり感アリアリで、私に応えてくれる。

 なぜにそんな顔をする?

 私はやる気満々なのに。しかも、ずーっと苦虫噛み潰したような顔であまり目を合わせようともしない。

 何よ、人が頑張ってる姿を後押しするのも団長の仕事でしょう。


 私、ジェイクからお願いされて、もう一度ニコラスになるミッションを敢行中ですから。

 いやぁ、上司からの命令じゃ断れないしね、しょうがなく潜入捜査頑張ろか、と思ってるワケですよ、あくまでもしょうがなくね。


 それというのも、内乱をさけるために、アルベリアの使者と密会していたもう一人の貴族が誰なのか、炙りださなければならないらしい。

 現場を目撃したのは私一人、しかし声しか聞いてない状況だ。

 そのため、今回開かれるアルベリアの使者たちをもてなすパーティーに潜入し、その中に居るであろう貴族を特定する、というのがニコラスに変装して行うミッション内容だ。


 私はスレイ君の遠縁の親戚で、今回は王都見学の一環でパーティーに参加するっていう設定になってる。


「いいか、絶対にスレイの側を離れるんじゃないぞ。貴族を見つけたらスレイにすぐ報告しろ、決して単独行動するなよ?」

「わかったってばぁ、それ耳にタコできるくらい聞いたから。全くジェイクったら心配性なのねぇ」


 本当はジェイクと一緒にいる方が都合がいいらしいが、アルベリアの使者にニコルとしての姿をみられたのと、ジェイクに不穏分子が接触を図ってきた場合のその後の対処にも影響が出る、ということで、今回はスレイ君とニコラスの格好で組むことになったのだ。


 私は張り切って家に遣いを出し、ニコラスに変身するべく、サーラを急遽王宮まで呼び寄せた。


 今回はパーティーに出席するので夜会服になるのだが……


 さすがサーラさん、今回もスチャッと一式披露してくれましたよ。部屋に入った時の彼女が、鼻の穴を膨らませて頬を上気させているのを見た時は、若干引き気味になったけどさ。


 ベッドの上に広がるニコル用のニコラス服(夜会服バージョン)をジェイクが見た時に、ガックリと肩を落としたのには笑ったが。


「お嬢〜、準備は進んでるかぁ?」


 スレイ君が部屋に入ってきて、私の出来栄えを確認する。


「おー、やっぱりサーラ殿ってすげぇな。このボディ最高だぜ」


 そう言いながら、私の胸とお腹をペタペタ触ってく。ふふふ、すごいでしょ。なんてたってサーラの仕込みは完璧ですからっ!


「……おい、スレイ。お前何ニコルに触ってんだよ。言っとくが、これでも女だからな」


 ジェイクの無茶苦茶不機嫌なもの言いに、スレイ君が慌てて両手を上にあげながら飛び退く。


「悪かった悪かった。しかし、ひと回り大きくしたらホントニコラスだもんなぁ、遠目じゃ絶対わからんって。これはこれで、ちんまりして可愛い感じもするしなぁ」


 おいっ、これでもってなんだいっ、これでもって。あたしゃ完全に女の子ですからあっ!

 まあ、最終的には二人とも女の子扱いはしてくれてるってことだよね、微妙なラインだけどさ。


 さて、サーラの最終チェックも済んで、いざ、パーティー会場へと移りますか。

 私は自分でも鏡を見つめて、改めて気合いを入れ直した。


「俺は王族側にいるから早めに出るが、お前たちはできるだけパーティーが始まった後から動けよ? 人が動いている中に紛れた方がバレにくいからな」

「はーーい」「了解」


 ジェイクの指示に私とスレイ君が同時に返事をする。さあ、お仕事の時間だわ、頑張らなくちゃ。



 ******



 会場はご婦人たちの色とりどりのドレスと熱気で華やかな雰囲気を醸し出していた。


「んー、この中から探しだすのかぁ、至難の技だな。お嬢、見つかんなかったら見つかんないでもいいからな。無理する必要ないぞ」

「うん、ありがとね。思った以上に人がいてびっくりだわ」

「そうかぁ? だいたいこんなモンだぞ、ってああ、お嬢はあんまりパーティーとか来ないんだっけ」


 そうなのだ。


 お母様の指示によって、私は社交の場には滅多に顔を出さない人間になっている。結果的には、ジェイクの花嫁として最も理想的な存在になっているのだが、そこまで計算して私を育ててきたのか、その部分は謎に包まれている。


 本当にそんなことを考えていたなら、お母様は真の魔女ってことなのかもしれないわ。

 お母様のニヤリとした顔が脳裏に浮かんで、思わずブルッと身震いしてしまった。


 しかし、人慣れしてない弊害だろうか、社交界からかなり遠い位置に置かれてる私には、この人数が波のように押し寄せてくる感じがして、もう既に人酔いしそうになっている。


「スレイ君、適当に歩き回って当たりをつけよう。早くしないと私、人に酔って倒れそう」

「おいおい、大丈夫かよ、わかった。あまり無理するな、急ぐぞ」


 スレイ君はご婦人やら紳士やらに挨拶しながら、少しずつ移動していく。私はその後からピッタリとくっついて、一応の愛想を振りまいてみた。

 半分くらい廻ってみたが、未だに収穫なし。

 ふうっとため息をついたところで、少し先にいるラスティ様と目が合った。向こうからこちらにやって来てくれるみたいだ。


「スレイ、先日は迷惑かけたね。こちらは私の命の恩人さんかな? 本当にありがとう。君がいなかったら、今私はここに居ないと思うよ。刺されたと思ったけど平気なの?」

「こんばんは、ラスティ様。私、ちょっとした細工をしてましたので、全然大丈夫です。お気遣いありがとうございます。仕事ですのでお礼はいりませんよ?」


 私はラスティ様からお礼を言われて恐縮して答えた。

 スレイ君がニコニコしながら私を紹介してくれる。ただし、隠したい内容なので小声で。


「こんばんは、ラスティ様。こちらニコル・テイラード嬢。訳あって今は弟の格好をさせてます。先日もこの格好でしたね。ジェイク様の婚約者になります」

「ああ、君なのか。ジェイクもなかなか面白い子を見つけたねぇ。しかも婚約者殿に命を救われるなんて、私は彼に頭があがらないよ」


 冗談混じりに話されて、余計に恐縮してしまい、カチコチに固まってしまった。

 しばらくラスティ様と雑談し、内偵を続ける旨伝えて、移動した。


 まずは飲みものでひと息ついて、仕切り直ししよう、と言うことで、スレイ君に取りに行ってもらった。


 ラスティ様に会った緊張と人混みから抜けだすために、私はなるべく外気に触れようと窓辺に移動した。


 その時だった。この間聞いた声が、近くから聞こえて来たのだ。どこかの紳士と雑談している様子だ。近づいてもう一度確認してみよう。


「……ですな。ルートルード殿も人がお悪い、ガハハハ……」

「いやいや、ロンダード殿こそ、隅に置けませんなぁ」

「では、ご一緒しますか? ガハハ」


 うん、間違いない。ロンダードって人がこの間の貴族だ。確か伯爵だっけ、子爵? かなんかだっけ? あーん、貴族名鑑、もっと読み込んどくんだったぁ。貴族っていっぱいいて覚えらんないもの。適当に開いてたのを今になって後悔するなんて。


 スレイ君に知らせなきゃ。

 ヤバいよ、なんか移動するっぽい。ここで逃したら逢えるかどうかわかんないし……

 単独行動は止められてるけど、しょうがないよね、少し後を尾けて、すぐ引き返して報告することにしよう。


 まんまとワナにハマりに行くとは考えもつかず、ノコノコと尾行を開始した。

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