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7話

 帰るまでの時間、ジェイクには少し仕事があるようで、庭先を散歩でもして待ってるように、と言われた。


 王宮の庭は、季節ごとの花が綺麗にまとめられていて、どの季節に見学しても飽きないように設置されている。


 今は春から夏にかけての時期なので、春の花が満開だ。せっかくなんで、夏から冬の庭も一緒に堪能しよう。新緑の季節らしく、花が咲いてない場所も葉が生い繁って壮観だ。


 今咲いている花を見て楽しむのもいいが、これから咲く花を想像するのも悪くない。


 と、樹木の間、奥のあまり人が立ち入らないような場所に人影を見つけた。

 私と同じく、葉っぱを楽しもうっていう物好きさんも、中にはいるんだね。話しかけてみようかな?


 ツツツと近づいて、話しかけようとした時だった。妙な話しぶりの内容だったのだ。


「……ので、……に処分……を第二……への不満分子……第三王子を擁立……べく……」


 は? 物騒な密談だ、これ。誰が話してるのか確認しなくっちゃ。

 みつからないように、ソーッと移動して……


 ガサッガサッ、バキッ……


「誰かいるのかっ!」


 あーん、ドレスが引っかかって、狭いとこなんかムリだったぁ。どうしよう、適当な言い訳を考えなきゃ。


「すみませーん、そちらにネコが走って行きませんでしたかぁ? 茶トラなんですがぁ?」

「知らんっ、ええぃ、邪魔だ、あっちいけっ」


 んー、クソぉ、顔が見えん……あ、見えた……って、アルベリアの使者じゃん。喋ってるのはもう一人の人っぽい? 私の知らない人。せめて顔だけでも覚えようと確認しにいったら、そそくさと居なくなってしまった。残されたのはアルベリアの使者だけ。あの蛇みたいな目で見られると気持ち悪い、早く戻ろう。


 しかし何? 何でアルベリアが第二王子の不満分子集め?

 ちょっと待って。不満分子を排除するんじゃないよね、もしかして内乱を煽動する気?

 マズい、急いで戻ってジェイクに報告しなきゃ。


「ああ、みつからないなら他の場所を探します。ご協力ありがとうございます」


 バッとお辞儀して、慌てて動こうとする私の動線に、見事に入り込んで話しかけてくる使者。


「ちょっと待ちなさい。君は侍女ではないね? どこのお嬢さんかな? とても綺麗な髪をしている」


 ねめつけるような目で見ながら、ゆっくりと髪の毛をひとすくいし、その髪の毛にキスを落とす使者、それをされた瞬間、ゾゾゾッと鳥肌がでて思わず身ぶるいしてしまった。

なんだろこの人、髪フェチなの? うっとりと髪を見つめ、ほうっとため息まで吐いている。


「な、名乗るほどでもありませんので、これで失礼します」

「まあ待ちなさい。ここで出逢えたのも何かの縁です。もう少しお話しをしましょう」


 一刻も早く立ち去りたかったが、手首を軽く掴まれて、なかなか離そうとしてくれない。

 しょうがないから名乗って非礼を謝ればいいのかしら?


「私、ニコルと申しまして、たまたま王宮に来ただけの者です。ご歓談を妨げましたなら、申し訳ありませんでした。私よりも、もっと頻繁に王宮にいらっしゃる方にお声掛けなさった方が、あなた様のお相手にもよろしいかと思いますよ」


 フルネーム言ったらマズそうだったから、名前だけにしたわ。そうそうバレやしないわよね? 顔覚えられる前に退場しなきゃ。


「そう言われてもねぇ、僕は君が気に入ったんだけど。是非僕のことを知ってもらいたいね。できればアルベリアへ招待したいくらいだなぁ」


 顔はすごく優しい顔をしてるの、ただ目が怖い。全然笑ってないんだよね。こんな目で四六時中見られてたら生きた心地がしないわよ。


 これ以上お近づきになりたくない私と正反対に、アルベリアの使者は私に興味を持ってきている。マズい、どうにかしてここから逃げたいんですけどぉっ! 誰か助けて〜。


「ニコル、どこ隠れてるんだ、帰るぞ」


 うっわぁ、最悪……なんでジェイクが来んのよ。それこそ誤魔化さないと、私がジェイクの身内ってバレちゃう。さっきの話しぶりだと、ジェイクの関係者だと知れると利用される率が高いと思われるし。スレイ君と一緒の時にも、私の存在は周りにバレると危険だって言われたしね。


 なんとか他人のフリしないと。


「ああ、ジェイク様、王宮があまりに広くて迷っておりましたたら、こちらの紳士からお声掛けいただきまして。私に侍女の仕事は無理でしたので、こちらに伺うこともないと申し上げていたところです」


 私が自分なりに設定した状況を瞬時に理解してくれたようで、ジェイクも適当に話しを合わせてくれる。


「おお、これはアルベリアの使者殿でしたか。私の連れが失礼しました。やはり田舎者には王宮は華やか過ぎたようでして。私の屋敷に連れて帰るところでした」

「第三王子の知り合いでしたか。よろしければ、そちらの者をお譲り頂ければ、私がアルベリアで仕事の世話でもしてやるかと思っていたところです。いかがでしょうか」


 嫌ーーっ、私アルベリアに売られちゃうーーっ。すかさずジェイクがフォローに入った。


「いえ、このような粗忽者、使者殿に申し訳がない」


 ん? なんか落とされてるんだけど。粗忽者ってどーよ。ちょっとカチンときたけど、まずは逃げることしなきゃいけないからね、我慢するか。


「その代わりにもっと見目良いご婦人を紹介しますよ、使者殿には洗練された女性の方がお似合いだ。それではまた後ほど」


 ジェイクは私の手を引き、その場を強引に離れた。

 さっきまでいた部屋まで戻り、完全に扉が閉まった瞬間、ギンッと睨まれ先ほどの状況説明を求められた。


「……お前はなんでこうも次から次へと。俺が行かなきゃ拉致されていたぞ、頼むから寿命を縮ませないでくれ」


 焦ったような、安堵したような、そんな顔をして強く抱きしめられた。その表情にドキドキして頰が赤くなる。ちょっとぉ、いつもの怒ってる方の顔してよ。私の心臓こそ持たないわよ。


 俯きがちに顔を隠していたら微妙に不機嫌な声で「あの野郎にどこ触られた?」と尋ねてくる。


「いや、髪の毛をひとすくい触られただけですからっ。気にしない、気にしない」


 そこにキスされたなんて言ったら、髪の毛剃られるかもしれない。焦りながらそれだけだ、と必死になって言い張った。

 一生懸命に髪の毛に息を吹きかけ、汚れを払ってる様子に思わずクスッと笑ってしまった。


「他にないか?」と問われるが、プルプルと首を横に振って、何もなかったことにする。なんとなく疑いの目でジッと見つめてくるので、慌てて話題を切り替えた。


「たまたま散策してたら出逢っちゃったのよ。不可抗力だから。それよりもね」


 私は先ほどのアルベリアの使者とどっかの貴族との密会の報告をした。


 話しを聞いたジェイクは、ものすごく難しい顔をしてる。

 しばらく唸り声を出して、ウロウロしてから「あー、クソーーっ」と苛立った声を上げる。


 何がどうなってるのかわからず、しばらく彼の行動を眺めてると、私をチラッとみながら、深く深ーくため息をついた。

 そして、その口から驚きの言葉が飛び出してきた。


「ニコル、お前、もう一度ニコラスになってみるか?」

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